『髪結い伊三次捕物余話 15』宇江佐真理 著
ついに最終回。伊三次一家の10年間にあったことが見えてきた。
雨が続いた週末にじっくり読書。このシリーズの最後の1冊となる。読み始めてまず、「あれ、これ読んだな」と思った。最初のいくつかの章が14巻目とかぶっている。慌てて目次を確認するとこういうことだった。
<14巻>
月夜の蟹
擬宝珠のある橋
青もみじ
<15巻>
月夜の蟹
擬宝珠のある橋
青もみじ
月は誰のもの
15巻の1番最後の章が新しいものだ。よくよく調べてみると、最後の小説のみが掲載されているものがある。
私が15巻目だと思って購入したものは1528円、最終章だけのものは612円。自分がちゃんとチェックしなかったとはいえ、最後の最後に購入でミスをしてしまったというオチである。
とはいえ、この「月は誰のもの」には突然ぽんと飛んだ10年の間の出来事が書かれていた。時代は今と昔を行ったり来たりするのだが、物語の後半になって唐突に再登場した人物と主人公たちの間に何があったのかが記されている。
まず、お吉が生まれたときのこと。つまり、火事で二人の家が焼けたあたりのころである。この火事の後、どのように彼らがまた生計を立て直したかなどの一切の詳細がなく、火事があった次の巻ではいきなり話が10年後に飛んでいた。冒頭にお吉が登場した時「この娘はだれ?」となったわけだが、そのあたりの経緯が記されている。
そして13巻あたりから登場した本所無頼派の核となっていた人物。なぜまた登場し、そして若旦那となった龍之進と親交を深めるような事態になったのか。生い立ちをさかのぼり、なぜ今があるのかが見えてくる。
残念なのは伊与太と茜の未来が見えなかったことだろうか。とはいえ、これで最後だという気持ちは満たされるような流れになっている。恐らくそれは過去を振り返りつつもその時点でのハッピーエンドが見えたからだと思う。著者の他界でこのシリーズに続きはないことから読者にも「最後」の覚悟があったからかもしれない。主人公たちの目の前の小さな幸せにすら「ああ、よかった」という気持ちにさせられた。
とにかく長く長く読んできたこのシリーズだが、軽いタッチの内容ではないけれども読みやすいものだと思う。ただ、軽さが無いだけに多分当分の間読み返すことはないだろうなと思う。今まで好んで読んできた『しゃばけ(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第1弾】』シリーズなどはファンタジー要素が強いのでたまに読みたくなってくる。私の中でのカテゴリーとしてはハリーポッターと同様だ。
時代小説の醍醐味を楽しめる義理人情が満載で、もしこれがドラマ化されたならきっと演技派俳優でなくては務まらないだろうと思われるような繊細さもある。最後まで楽しめるシリーズだった。