Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#361 背筋が伸びて楽になりました~「股関節1分ストレッチ」

『股関節1分ストレッチ』南雅子 著

股関節のストレッチで体を整える。

 

今年は9月になった途端にいきなり秋が訪れたかのような天気が続いている。昨日はちょっと肌寒いと感じるタイミングもあって窓も開けずに過ごしていた。

 

去年の在宅勤務が続いていた時、ある瞬間から尾てい骨が痛くなった。尾てい骨というのかどうかはわからないのだけれど、人間にしっぽがあるなら多分ここから生えるだろうなと思える当たりが長く座っているとじんわり痛い。そもそも普段から姿勢の悪さは自分でも意識しており、猫背がちになってしまうのが原因だろうとはすぐに想像がついたのだけれど、これが1年過ぎてもまだ痛い。

 

在宅勤務の間、ダイニングテーブルで仕事をしている。椅子には高反発のクッションを置いて座っているのだけれど、それでもまだ痛い。特に美容室に行った時などリクライニングの椅子に座っているとそこに体重がかかるせいかものすごく痛い。やっぱり会社の椅子は長時間勤務に耐えられるように作られていたんだなあと実感し、あの高価格にも改めて納得。

 

余りの痛さにバランスボールに座ったり、ストレッチポールの上に横になったり、出来る限り楽なやり方で治せないだろうかと検索していた時に本書を発見した。しかも痩せるらしい!「すごいやせる!」らしい。ということで、早速実践している。

 

本書はダイエットに着眼した「太る理由」を股関節のゆがみにあると説いている。まずはマンガでサロンに訪れたお客様の「不調」の理由に対し、それは骨盤や股関節が正しい位置にないからだ、と説明していく。

 

まず初めにやらなくてはならないことは、目を閉じてその場で足踏み50歩踏んでみることだ。自分ではその場で全く動くことなく足踏みしているつもりなのだけれど、私の場合は前にまっすぐ50センチくらい前進していて驚いた。その動いてしまった場所から、股関節を簡単に診断する。

 

例えば私のように前に進んでしまうタイプは「前かがみタイプ」で猫背がちの人。右斜め前であれば「左重心タイプ」で左側の股関節が固いので足の位置が右側に傾いている。左斜め前であれば「右重心タイプ」で右側の股関節が固いので足の位置が左側に傾いている。両タイプはさらに太ももが太くなるらしい。そして最後に後ろに後退しているタイプは「うしろ反りタイプ」で背中のSカーブの反り返りがひどく、顎が上がってバランスが前または後ろに傾いているらしい。

 

今こうやって書いてみると、私は全部に適しているような感じが否めない。ということはやっぱり体が歪んでいるわけだ。本書に出ている「不調」は、ダイエットのみならず地黒に悩む人やO脚を治したい人、顔が長いとかデコルテをきれいにしたいという外見の問題を訴える人もいる。さらにはやる気が出ないという精神的な問題にまで股関節問題が関連しているらしい。

 

本書内にも長く続けられそうな簡単なストレッチが掲載されているが、私はYoutubeで検索したものを数日続けてみた。すると、なんと痛みが少しずつ改善してきているので驚きだ。不思議なことに気が付くと背筋もすっと伸び、猫背がちだった姿勢がストレッチのあとにはまるで背が伸びたかのような気持ちになるほど気分が良い。ちなみにやって3日で1キロ落ちたのにも驚いたが、その後まったく変化が無い。

 

ちなみに、ストレッチを実践するにはヨガマットなどがあったほうが良いと思う。私は今は直接ぺたりと床に座ると痛さに飛びあがるほどなので何かクッションになるものがあったほうがスムーズに体を動かせている。

 

本書のストレッチレッスンも掻い摘んで実践しつつ、メインはYoutubeの動画に合わせて1日30分くらいストレッチを続けてみて、また本書に戻って骨盤の役割について読み直したりしている。この調子で肩凝りや腰痛も良くなるといいなあ。

 

#360 昔の旅行記を読んでみました~「よい旅を、アジア」

『よい旅を、アジア』岸本葉子 著

20世紀末のアジアの旅。

 

随分昔のことで覚えている人はほぼいないに等しいと思うけれど、10年ほど前、モスバーガーに玄米フレークシェークというのがあった。夏限定の商品で、私はその中でも初期にあったアロエラズベリー?木イチゴ?のものが好きだった。今調べてみたらモスバーガーの公式Twitterに画像があったので転記しておく。

 

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1990年デビューだそうで、今は販売されていない。ベースのシェーク部分はヨーグルト味で、その上に玄米フレークをのせ、トッピングにジャム状のフルーツがのせられている。本書を読んでいてなぜかこれを思い出した。

 

本書は著者の1980年代のアジアの旅を1991年に文庫化したものに90年代の旅が加筆されたもので、今から30年くらい前の旅行記となる。当時著者は北京に語学留学しており、それが天安門事件の前(1989年)で、留学生も非常に少なかったことと思われる。北京からの旅は長江を内陸から上海まで下る船旅から始まり、台湾、韓国、マレー半島、香港、チベット、インドなどで、80年代の当時の状況が新鮮だった。

 

例えば、韓国旅行へは東京で通っていた韓国人の歯医者さんから知り合いを紹介してもらい、ソウルとプサンを中心に旅しているのだけれど、その時の韓国はまだ中国ともロシア(本書ではソ連になっている)との国交樹立前で、当時の大学生がすでに就職のために日夜勉学に励む様子などがあった。人気のある言語がロシア語で、国交が開けば交流が増え、仕事が増えると見込んだことにあったらしい。あとは日本語の女性雑誌を回し読みしてファッションについての知識を入れているなどの話もあった。

 

香港ではカルチャーショックにあっている。香港が英国から中国に返還されたのは1997年で、著者が訪れた頃はまだ英国の領土であった。著者にとって北京の日常が「中国」そのものであったであろうし、東京の生活から北京への生活に移行してまだ6か月の時期だったらしいけれど、北京にはすっかり馴染んでおられたらしい。確かに、環境が全く異なるところに行くと、そこでの生活に馴染めないことは死活問題にかかわってくる。著者はもともと旅行好きだし、きっとスッと現地での生き方を受け入れたに違いない。

 

当時北京から香港というのはそれはそれは遠い国だったようだ。確かに大陸の南端にあたるだろうし、汽車に乗るにしても広州あたりまで出てきてからの乗り換えで、そもそも北京から広州だって結構な距離だ。気候も違うし、言葉も違う。香港で普通語が通じない苦労などなどを味わいつつも、資本主義とは!と驚くところも面白かった。当時の日本ではブランド品を香港で購入することが多かったらしい。為替が有利だったこともあるだろうけれど、きっと香港の物価がとても安かったからだろう。

 

私が知っている香港は2010年代だから著者の香港旅行記とはまったく違った経験になるけれど、その頃でも「普通語を話す人が増えてきた」と香港生まれのイギリス人たちが話していたし、中国が南下していることを感じているとのことだったけれど、最近はその弾圧が激しくなっている。

 

とてもとても昔の旅でありながら、何となく今もそんなものでは?と思う国もいくつかあった。シンガポールやインドあたりはなんとなく変わっていないような印象もある。やはり一番大きく変わったのは恐らく中国だろう。そもそもスマホもない時代のことだし、言葉も新しい概念と共に単語がどんどん導入されているはずだ。

 

最近私も急に中国語に興味が出てきて、著者が本書でも書いているように漢字の威力に惹かれている。「緊急事態」と「エマージェンシー」では私としては漢字のほうがスッキリ飲み込め、何か起きそうとの不安が募る。本書にあった面白い表現に「最流行的 爆炸式髪型」というのがあった。これはアフロヘアのことで女性に人気だったらしい。漢字は目にパワフル、意味明快でちょっと楽しい。その楽しさが中国語を学んでみたいというモチベーションを上げてくる。あと、中国語は音の似た漢字を使った今風の言葉があるらしい。たまにネットで見かけるとつい読んでしまうのだけど、その当て字っぷりも面白くてつい笑ってしまう。きっと近いうちに勉強し始める気がする。

 

80~90年代って何があっただろう。子供の頃の思い出を記憶の片隅から引っ張り出しつつ、新鮮な驚きを持って読んでいた。香港の章でマクドナルドに感動したり、カフェのストロベリータルトに感激したりするくだりがある。私が思い出せる限りのファーストフードメニューでの「おいしい」だけれど、なぜかモスの玄米シェークが一番に思い出され、「ああ、そんなことがあったな」と懐かしんでいた。そして丁度ヨーグルトもあるしと再現してみたら割とおいしくて「朝ごはんの定番にしよう」とほっこりした。

 

イギリスのキャサリン妃が主催した「Hold Still」という写真集がある。30年後、40年後、コロナ禍を思い出す時、私はどんな気持ちになるのかなーとふと思ったり。たった数十年で世の中とはこんなに大きく変わるものなのかと改めて時間の流れを意識した。たまに過去の旅行記を読むのもノスタルジックな楽しさがある。

 

#359 雑誌を見ながら憧れのキッチンについて妄想してみました

『人と暮らしと、台所~夏』雑誌

料理家さんたちの台所。

 

涼しい9月が続いていたけれど、今週半ばから少し晴れ間が見えるらしい。週末、どうしても書類を送るための封筒が必要になり、近くの文具店へ行ってきた。文具店というか、書店に併設されている文房具コーナーなのだけれど、住宅街の本屋さんってオフィス街や繁華街に比べ、置いてあるものに味があって面白い。

 

少し時間があったので雑誌コーナーを眺めていたら、「お、これは!?」と思うものがあったので購入した。実は本書はEテレの番組のためのもので、テレビを見ない私は番組自体は見たことがない。ただ、本書の前にも1冊同様の内容が出ており番組の存在自体はうっすら知っていた。

 

こちらが私が持っている1冊目。なぜテレビ無し生活の私がこれを知っていたかと言うと、有元葉子さんの新しい本が無いかと検索を掛けたときにヒットしてきたからで、雑誌の割には1500円くらいとお高いけれど、他の料理家さんのことも知ってみたいという思いから購入した次第で、やはり番組時代は見たことが無い。Youtube検索したらあったりするのかな?一度チェックしてみよう。(→やっぱり無かった。残念。)

 

さて、今回の夏バージョン、購入の決め手は高橋みどりさんだ。高橋さんが栃木に家を建てられた話は愛読しているサイトですでに知っていた。「暮らしとおしゃれの編集室」で特集される前から高橋さんのキッチンには興味があり、「ヨーガンレールの社員食堂」が出たころから憧れ続けてきたお方で、お名前をお見掛けすると即座に飛びつきたくなる。見てこのセンス!!!

 

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本書はラフなキッチンの見取り図(イラスト)があり、とても参考になる。よく私がいつか自分でキッチンをデザインする夢のような生活が実現するとしたら、とうことを妄想しているのだけれど、一つ悩んでいることがある。それはキッチンを独立型にするべきか、それともダイニングエリアとつなげるべきか、ということだ。

 

大体日本の住居はキッチンからダイニング、もっと言えばリビングまで見渡せるような作りになっていることが多い。オープンエリアの奥にキッチンがある感じ。でも、それは調理の匂いが立ち込めてしまい、例えばカレーを作った日にはずーーーっとカレーの匂いが家全体を覆い続ける。そもそもカレーは家の前を通った人が「まあ、あのオタクは今晩カレーなのね!おいしそう!」とメニューのご案内までするほどの威力がある強者だけれど、焼き魚やニンニクや玉葱などなど、後を引くお料理の匂い問題はどうにかして解決したい。単独キッチンにして、香りが外へ漏れず、その前に換気などで脱臭するのがベストでは?と今のところ思っているのだけれど、生活としてどうなんだろうか。ヨーロッパの家はキッチン、ダイニング、リビングルームがそれぞれしっかり区切られていた。でも全然不便は感じなかったし、むしろキッチンが独立しているおかげで気持ちが切り替わる感もあった。単独キッチンであれば奥の部屋で肉をじゅうじゅう焼いていようとも、リビングルームではいつまでも美しいバラの香りが漂っているわけだ。

 

でも、憧れる料理家さんのお宅はすべて開かれた空間にあり、キッチン自体がものすごく素敵な「見せる場」となっている。高橋さんのキッチンは取材の機会も恐らく多いと思うのだけれど、それ以外の料理家さんのキッチンも割と境界線がはっきり見えない場合が多かったように思う。とはいえ、みなさんお仕事でスタジオとしてのキッチンをお持ちなので、撮影しやすいような、お料理レッスンがしやすいような空間を第一に考えておられるはず。お仕事キッチンと一般住宅とでは事情が異なるだろうけれど、写真で見る限りではそれがなんとも個性的で羨ましくなった。

 

夢のマイキッチン妄想を頭の片隅に置きつつ、本誌を読んだ。読み物も面白く、新しく料理関連の書籍についても知ることが出来た上に、ちょっと別の視点からだけれど紙質が良いので長く読み続けられるところもポイント。いつか自分のキッチンが持てたらなあ。

#358 台湾ごはんの魅力は尽きず!~「ペギーさんのおいしい台湾レシピ」

『ペギーさんのおいしい台湾レシピ』ペギー・キュウ著

台湾料理を日本で作る。

 

ルーローハン、あれはなんと美味しい食べ物なのだろう。台湾へは今まで4回しか行ったことがなく、しかもその4度とも台北のみと台湾を満喫しつくせていないのだけれど、台北だけでも食べたいものが多すぎて困ってしまう。たくさん食べたいという欲があるので麺類、ご飯類はおなかが膨れてしまうとちょっぴり距離を置いていたことが毎回悔やまれる反省点である。このルーローハンはお肉がメインということもあり、より一層現地での選択肢からは外れがちだった。(私は肉より魚より野菜派)

 

コロナ禍でなかなか外に出られなくなった今、住んでいるエリアのレストランに目が行くようになり、駅から自宅への通り道に台湾のルーローハンやシンガポールのチキンライスを出すお店があることを発見、早速ルーローハンをテイクアウトして食べてみたところ、そのあまりの美味しさにそれからしばらく通い続けてしまった。

 

ルーローハン、一口食べたら絶対止まらないに違いない。試しにインスタで調べてみたら、15.3万件ですよ?本書でも1番最初にルーローハンのレシピが登場している。

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食べてみると豚肉、醤油、砂糖、五香粉かな?という予想は立つものの、具体的な作り方を知りたいとネットであれこれ検索しているうちに、この本の存在に行き当たった。そもそも、今はルーローハンにすっかり心が奪われているけれど、もともと肉好きではない私のこと、そのうち飽きがくるに違いない。それなら他の料理のレシピも知っておいた方がよいぞ、と早速購入した。

 

それにしても、ルーローハンの作り方を想像する度によく缶詰で売っているサンマのかば焼きを想像していたのはなぜだろう。醤油と砂糖のせいだろうか。ごはんにのせると倍うまい、とかそういうところだろうか。

 

ペギーさんはご自身が留学していた時に無性に台湾料理が食べたくなり、自分で作り始めるようになったことがきっかけでレシピを産むまでになられたそうだ。そしてご両親が日本の統治時代を経験しておられ、何度も日本に足を運ばれたことから、日本食についてもお詳しい。よって、日本の食材や調味料にも明るいけれど、日本に寄りすぎないレシピが生まれたのだと思う。

 

使われている食材もシンプルな卵料理からちょっと手の込んだものまであるが、何時間も煮込むなどの複雑さはない。そしてちゃんと日本人が台湾で食べたくなるものが掲載されており、見てみると意外と簡単じゃん!再現できるじゃん!と早速冷蔵庫を開けたくなるようなものばかりで構成されている。まさにコロナ禍での台湾熱を満たしてくれる一冊だと思う。個人的に面白かったのは目玉焼きをごま油で作ると言うのがレシピにあったことだ。確かに日本ではごま油(太白じゃないです、黒い普通のやつ)で作るってないかもしれないけれど、確かに深みが増しそうな気がする。

 

それにしてもお砂糖の登場数が多いのには驚いた。白砂糖、氷砂糖、三温糖など使い分けるけれども、手軽に作ろうと思うと結構なカロリーになるのかもしれない。確かに日本より熱くて湿度の高い台湾では滋養の高い食べものが必要になるのだろう。

 

都内に教室もあるようなので、コロナ禍が終わったら行ってみたい。

 

hojakitchen.stores.jp

#357 アガサの本には旅行先を選ぶヒントがありますね ~「死との約束」

『死との約束』アガサ・クリスティー

ポアロシリーズ第19弾。

 

雨のせいか読書が捗る。仕事のための書類をパソコンで読んでいるのだけれど、どうも目が疲れてしまう。その点Kindleは素晴らしくて何時間でも読んでいられるし、文字の大きさや画面の明るさを調整できるのでより快適な読書環境を生み出せる。

 

さて、ポアロシリーズもずいぶん読み進んできた。15冊を超えたあたりから長編がどんどん面白くなり始め、最初は没頭できるまでに時間が掛かったけれど今は読み始めたらすぐに繰り広げられているシーンを柱の陰から覗いているような気分になる。本書の基本情報はこちら。

 

Title: Appointment with Death

Publication date: May 1938

Translator:  高橋豊

 

今回の舞台はまたもや英国国内ではなく中東で、今回はイスラエルエルサレムからスタートする。私は平均的な日本人的宗教感覚を持っていると自負している。八百万の神様を信じ、自然の恵みや畏怖を信じ、敬虔な気持ちで神社をお参りし、仏教の教えに耳を傾ける。高校時代はプロテスタントの教えをモットーとする所で、宗教の時間に聖書の勉強もした。ヨーロッパでは教会にも訪れるし、さらに言えばジャンルに関わらず宗教建築を訪れるのが大好きなので、旅に出れば必ずお参りに行く。雑多でOKなのが日本人の特徴で、他の宗教を信じる人々にしてみれば「なんだこのゆるっゆるな人たちは!?」と驚くのではないだろうか。平和でいいじゃんと思うのだけれど、実際諸外国の人は日本人の宗教観をどう見ているのだろう。アガサたちヨーロッパの人々にとっては信仰として多くの人がキリスト教とともに暮らし、旧約または新訳それぞれの違いはあれども共通した文化背景を持っているように思う。

 

聖書を紐解くと舞台は中東から始まる。キリスト教の聖地は今はイスラエルという国が統治しており、ご存じの通りイギリスとユダヤ教徒の間でのあれこれの結果、私たちが今見る世界となっている。イスラエルにはキリスト教ユダヤ教イスラム教の聖地が共存しており、考古学者や歴史学者、そしてもちろん宗教学者であれば必ずや訪れたい所だろう。アガサの夫は考古学者で、この作品が書かれた1930年代は現地調査に赴いていたことから、この頃の作品には中東が多く登場する。

 

さて、エルサレムが舞台のこの作品、登場人物はほぼ旅行者だ。まずアメリカからはボイントン一家とそのご友人、イギリスからは3人の女性でそれぞれ現地で顔見知りとなり、職業は議員、元保母、医学士と多彩。フランスからは心理学者のジェラール先生がエルサレムの同じホテルに滞在しており、それぞれが聖地の旅を楽しんでいた。そしてみな、キリスト教文化圏の人たちだ。

 

前半部はボイントン一家を中心に代わる代わる登場人物が背景を埋めていく。語り手は第三者でシーンは頻繁に動きがある。このボイントン一家が今回のキーと言っても過言ではなく、読み手の心をかき乱すのでぐいぐいと物語に引き込まれてしまった。ボイントン一家の構成は母親と4人の子供と長男の嫁で、この母親が不気味以上の何物でもない。恐慌管理で家族を家に縛り付けている。今でいう毒親そのもので、ここはやっぱりアガサの文才なのだけれど、気味の悪さが完璧。ちなみにボイントン家の父親はすでに他界しており、上から3人目までは前妻の子で末っ子だけがボイントン夫人の実の娘である。

 

ボイントン家の子供たちが毒母からひどい仕打ちを受けていることに心を痛める人が多く、これが問題の発端であり、決め手となる。事件はエルサレムから遠く離れたペトラという街で発生し、その町は今地図で見てみるとヨルダンにあるらしいことがわかった。小説の中で赤い岩の街とあり、ずっと気になったのでさっそくヨルダン旅行情報のサイト調べてみると、小説の通り赤い赤い岩に囲まれた美しい遺跡があった。

 

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きれいだなあ。これはいつか実際に見てみたい光景!小説の中の旅行者たちはここでテントを張って数日過ごしていたらしい。なんとも幻想的、なんとも雄大!しかし、事件は起こってしまい、旧友へ書簡を届けに行く予定でイスラエルに滞在していたポアロが協力することに。事件自体はこの美しいペトラで起きるのだが、調査はアンマンに滞在していたカーバリー大佐のもとで行われている。

 

読み進めながら見え隠れするのが、キリスト教を信じるであろう人々が、その聖地で悪や罪に苛まれるというシニカルさと、苦しみもがき虐げられ続けた日々との戦いや心の葛藤と救いを求める気持ちが入り乱れているところにある。そして今までの小説と異なる点は「悪」の種類にスパイスが加わっていることだろう。シェークスピアハムレットのシーンが引用されている所があるのだけれど、ハッと息を飲むような臨場感を与えているところも素晴らしかった。

 

しかもそれがヨーロッパやアメリカのような整然とした街並みではなく、血のように赤い、原始を思わせるペトラの街であったからこそこの事件は発生し、不思議な様相を秘めつつも解決に向かうという様がすごい。そして終わり方にもその影響が表れていて、最後までキリスト教文化的な流れがそこにあるように感じた。舞台が中東だからこそ人のオリジンを見せつけられたような気もする。

 

今回のポアロも短時間で事件をさくっと片付けた。24時間の猶予だったことから、すぐに人々にインタビューをし、そこから鋭利に関連性を見つけている。ヘイスティングズの登場もなく、通してずっと微妙な威圧感と緊張感が漂った作品だった。

 

今回の翻訳は順に読んでいるクリスティ文庫では初登場の高橋豊さんのもので、大変読みやすく、テンポよく終わりまで読むことができた。1924年生まれ、東京大学教育学部卒。Wikipediaによると、1949年に鱒書房に入社し、『夫婦生活』の編集に当たったが、セックス特集で無関係の人々の写真を掲載する問題を起こして解雇された。とあるんだけれど、いったい...

 

評価:☆☆☆☆

おもしろさ:☆☆☆☆

読みやすさ:☆☆☆☆

#356 「ダウントンアビー」~アフタヌーンティーのお菓子たち

 『The Official Downton Abbey Afternonn Tea Cookbook』Weldon Owen

「ダウントンアビー」の公式お茶菓子レシピ集の英語版。

 

9月に入った途端に涼しくなった気がする。雨がひどくない時は窓を開けているだけでも十分涼しい風が入ってきてちょっぴり秋が見えてきた気もする。

 

さて、昨日に引き続き、今日もダウントンアビー関連です。

 

 

このテーマが聞こえてくるだけで気持ちが高まってくる。テーマを聞いているだけで心がぐっと引き付けられるものといえば、少し古い映画だけれど「ピアノレッスン」のテーマも良かった。もうずっと聞いていられる。

 



さて、今回はそのダウントンアビーのアフタヌーンティー用のレシピ集。お料理版の方はKindle for PCではなぜか片面しか開けなかったのに、本書は両開きで見られたので豪華さが増したような気持ちになった。

 

いくつか内容がかぶっているレシピもあるし、写真も同じだったりもするのだけれど、やっぱり見ごたえがある。

 

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外せないスコーンのレシピはこんな写真とともに添えられている。やっぱりストロベリージャムなのね。クロテッドクリーム、最近スーパーで国産のものを見かけた。たまに英国展などでイギリスから取り寄せたものが販売されていることもあるけれど、現地で食べるほうがコクがあり美味しい気がする。

 

本書を読んでいて思ったのだけれど、ドラマは登場人物に起こる出来事をストーリーとして追うことで成り立っているので、日常の「食事」というのはシーンとしては設定があっても食事そのものにフォーカスが当てられることはめったになかったように思う。よっぽど美味しいとか、よっぽどひどいとか、執事がサービングに失敗するような時にはお皿の上がアップになるけれど、そんな場面は多くはない。となると、ドラマの中でちらっとしか映っていないものや、ドラマには出ていないけれど1920年代のイギリス貴族はこんなものを召し上がっておられましたよ、的な意味でのレシピ集と考えた方が無難かもしれない。

 

例えばこちらはカヌレのレシピなのだが、カヌレなんか出てたかなあ。個人的にはカヌレ大好きなので転記しておきたい。

 

 

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この写真はカヌレを作っているところかな?型がカヌレっぽくはあるけれど、できあがった写真も掲載して欲しかったなと思う。

 

この頃、私的懸案事項となっているクランペット、こちらにもレシピがあった。

 

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やっぱり私が参考にしていたレシピは水分少な目だったんだと思う。手元にレシピが揃って来たので試してみたいと思いつつ、何となく小麦粉系のものを食べたい気分にならずでなかなか手を付けられずにいる。もう少し寒くなったら食べたくなるのかな。

 

さて、この公式ブックだけれど、紙版を買うかどうかといえば、多分買わないと思う。類似レシピは他の本でもチェックできるし、そもそも出来上がり図のないものは「作ってみたい」という思いが湧いてこない。日本語版にはすべての料理の写真が掲載されているのかもしれないけれど、だとしても英語版Kindleであれば日本語の本書1冊買うお金で公式本2冊買ってもおつりがくる価格だったので、まあ満足。

#355 『Downton Abbey Cookbook』~感動再び!ため息止まらないです!!!

 『The Official Downton Abbey Cookbook』Annie Gray

「ダウントンアビー」の公式料理本(英語版)

 

あっという間に9月。コロナ禍以降は時の経つのがやけに早い。このままいけば年末なんてすぐにやってくるんだろうな。

 

さて、本書。もう何度見たか分からないイギリスのドラマ「Downton Abbey」。ドラマ自体はシーズン6まであり、その後続編として映画も出ている。英語に耳を慣らしたい時、イギリスに行きたくなった時、なにか美しい風景を見たい時、歴史ドラマが見たい時、何か見たいけど何が見たいのかよくわからない時、とりあえずこのDownton Abbeyを見ている。

 

舞台は1910年代、20年代のYorkshireで、Downton AbbeyとはGrantham一家の暮らす屋敷のことだ。Grantham一家の爵位はEarlだから伯爵になる。執事がおり、ハウスキーピングのために多くの人が働いている。

 

こちらはその中での重要人物、Patmore夫人だ。料理担当で、その腕は伯爵にも認められている。

 



個人的には料理よりお茶のシーンのほうが記憶に残っているのだけれど、登場人物に気を取られていることの方が多くて料理に目が行くことはあまりなかったかも。でもキッチンでのシーンは道具や食器が美しくてじっくり眺めては楽しんでいた。

 

そんな大好きなドラマの公式クックブックが出た!というから早速購入しようと思ったのだけれど、日本語のものはなんと4290円もする。スペースの関係上これ以上大型本を買う勇気もなく、その上イギリス貴族のお料理だなんて再現できるのか!?という内容についての不安もあってどうしようかと迷っていたら、英語であればKindle版もありお値段もなんと半額以下(1174円だった)だったのでまずは英語版で読んで、どうしても欲しければ紙版を買おうと早速購入した。

 

内容はUpstairs(Granthamご一家用)とDownstairs(使用人用)のメニューに分かれている。やはりUpstairsのものは見た目が美しくポーションも小さめのものが多い。あとデザートも色とりどり美しく、伝統的な料理も多かった。そして何と言ってもサービングされている食器類が美しすぎる。

例えばこちらはAfternoon Teaの項目にあったマドレーヌ。

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このように写真とともにレシピがある。

 

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たまに写真が小さかったりどれがどれだかわからなかったりもするのだけれど、写真がそれはそれは美しくてほれぼれ眺めてしまった。ただ、食べてみたい!作ってみたいと思ったものはDownstairsのほうが多かったように思う。カリフラワーチーズ、美味しそう!!!これなら再現できそうという気軽さも良かった。貴族のご家庭なわけだから、きっとよい材料使っていたんだろうなーなど、いろいろ妄想が膨らむ。

 

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Kindle for PCで読んでいるのだけれど、見開きで読めないのが残念。でも4000円だして本書を買うのは悩んでしまう。その金額があるならば他の料理本も買えてしまうなあと悩ましい。しかもイギリスの伝統料理であれば、この本ならずとも他にも実現しやすいレシピ集がたくさんある。すでにお菓子の本はお気に入りが2冊あるし。

 

ところで公式本は2冊出ていて、もう一冊も購入してしまった。これはまた明日へと続きます。