Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#360 昔の旅行記を読んでみました~「よい旅を、アジア」

『よい旅を、アジア』岸本葉子 著

20世紀末のアジアの旅。

 

随分昔のことで覚えている人はほぼいないに等しいと思うけれど、10年ほど前、モスバーガーに玄米フレークシェークというのがあった。夏限定の商品で、私はその中でも初期にあったアロエラズベリー?木イチゴ?のものが好きだった。今調べてみたらモスバーガーの公式Twitterに画像があったので転記しておく。

 

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1990年デビューだそうで、今は販売されていない。ベースのシェーク部分はヨーグルト味で、その上に玄米フレークをのせ、トッピングにジャム状のフルーツがのせられている。本書を読んでいてなぜかこれを思い出した。

 

本書は著者の1980年代のアジアの旅を1991年に文庫化したものに90年代の旅が加筆されたもので、今から30年くらい前の旅行記となる。当時著者は北京に語学留学しており、それが天安門事件の前(1989年)で、留学生も非常に少なかったことと思われる。北京からの旅は長江を内陸から上海まで下る船旅から始まり、台湾、韓国、マレー半島、香港、チベット、インドなどで、80年代の当時の状況が新鮮だった。

 

例えば、韓国旅行へは東京で通っていた韓国人の歯医者さんから知り合いを紹介してもらい、ソウルとプサンを中心に旅しているのだけれど、その時の韓国はまだ中国ともロシア(本書ではソ連になっている)との国交樹立前で、当時の大学生がすでに就職のために日夜勉学に励む様子などがあった。人気のある言語がロシア語で、国交が開けば交流が増え、仕事が増えると見込んだことにあったらしい。あとは日本語の女性雑誌を回し読みしてファッションについての知識を入れているなどの話もあった。

 

香港ではカルチャーショックにあっている。香港が英国から中国に返還されたのは1997年で、著者が訪れた頃はまだ英国の領土であった。著者にとって北京の日常が「中国」そのものであったであろうし、東京の生活から北京への生活に移行してまだ6か月の時期だったらしいけれど、北京にはすっかり馴染んでおられたらしい。確かに、環境が全く異なるところに行くと、そこでの生活に馴染めないことは死活問題にかかわってくる。著者はもともと旅行好きだし、きっとスッと現地での生き方を受け入れたに違いない。

 

当時北京から香港というのはそれはそれは遠い国だったようだ。確かに大陸の南端にあたるだろうし、汽車に乗るにしても広州あたりまで出てきてからの乗り換えで、そもそも北京から広州だって結構な距離だ。気候も違うし、言葉も違う。香港で普通語が通じない苦労などなどを味わいつつも、資本主義とは!と驚くところも面白かった。当時の日本ではブランド品を香港で購入することが多かったらしい。為替が有利だったこともあるだろうけれど、きっと香港の物価がとても安かったからだろう。

 

私が知っている香港は2010年代だから著者の香港旅行記とはまったく違った経験になるけれど、その頃でも「普通語を話す人が増えてきた」と香港生まれのイギリス人たちが話していたし、中国が南下していることを感じているとのことだったけれど、最近はその弾圧が激しくなっている。

 

とてもとても昔の旅でありながら、何となく今もそんなものでは?と思う国もいくつかあった。シンガポールやインドあたりはなんとなく変わっていないような印象もある。やはり一番大きく変わったのは恐らく中国だろう。そもそもスマホもない時代のことだし、言葉も新しい概念と共に単語がどんどん導入されているはずだ。

 

最近私も急に中国語に興味が出てきて、著者が本書でも書いているように漢字の威力に惹かれている。「緊急事態」と「エマージェンシー」では私としては漢字のほうがスッキリ飲み込め、何か起きそうとの不安が募る。本書にあった面白い表現に「最流行的 爆炸式髪型」というのがあった。これはアフロヘアのことで女性に人気だったらしい。漢字は目にパワフル、意味明快でちょっと楽しい。その楽しさが中国語を学んでみたいというモチベーションを上げてくる。あと、中国語は音の似た漢字を使った今風の言葉があるらしい。たまにネットで見かけるとつい読んでしまうのだけど、その当て字っぷりも面白くてつい笑ってしまう。きっと近いうちに勉強し始める気がする。

 

80~90年代って何があっただろう。子供の頃の思い出を記憶の片隅から引っ張り出しつつ、新鮮な驚きを持って読んでいた。香港の章でマクドナルドに感動したり、カフェのストロベリータルトに感激したりするくだりがある。私が思い出せる限りのファーストフードメニューでの「おいしい」だけれど、なぜかモスの玄米シェークが一番に思い出され、「ああ、そんなことがあったな」と懐かしんでいた。そして丁度ヨーグルトもあるしと再現してみたら割とおいしくて「朝ごはんの定番にしよう」とほっこりした。

 

イギリスのキャサリン妃が主催した「Hold Still」という写真集がある。30年後、40年後、コロナ禍を思い出す時、私はどんな気持ちになるのかなーとふと思ったり。たった数十年で世の中とはこんなに大きく変わるものなのかと改めて時間の流れを意識した。たまに過去の旅行記を読むのもノスタルジックな楽しさがある。