Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#523 幸せの国を旅する~「未来国家ブータン」

『未来国家ブータン高野秀行 著

雪男はいるのか!?

 

週末は3回目の接種の後、久々に何もせずにぼんやりと本を読んだ。今まで運よく感染することなく過ごしているけど、今までのように旅行や外食を楽しめる日はいつくるのだろうか。海外ではマスク着用義務が解除されたなどのニュースもあるけど、個人的にはまだ早いのでは?と思ったりもする。

 

なんとなく開放的な気分になりたくて本書を読んだ。著者は世界各地の秘境を巡る書籍が多く、数多い書籍の中から本書を購入した理由はたしかKindle本のセールだったからだと記憶している。

 

旅は2010年4月に始まり、約1か月をかけて首都ティンプーを北上し、それから東へ移動する。旅の目的は結構学術的で、「生物資源を調べる」というものだ。秘境探検家である著者がなぜ?実は著者が顧問を務める会社から依頼されての探査であった。

 

ブータンといえば、幸せの国として知られる他、素敵な国王ご夫妻のイメージが強い。場所はなんとなくヒマラヤ山麓チベットの南、インドの北かな?というくらいで国の大きさや正確な位置など、改めて地図で調べるほど情報を持っていなかった。そんなゼロ状態で読み始めたので驚くべきことがあまりに多く、最後まで好奇心に満たされつつ一気に読み終えた。

 

まず、生物資源について、これは私も大変興味深い。依頼主は植物の持つ効能に注目しており、中でもまだ世に知られていない、例えば現地の伝統的な治療法など、それをブータンで探そうというわけだ。確かにヒマラヤの麓であれば、高山植物など人々が知りえない種目も多いだろう。ハーブなど、とてもとても魅力的!と、前のめりで読んでいるのだが、著者はというと神秘を探すことで頭はいっぱいのようだ。それがまた笑えてくる。

 

著者が関心を持っているのは「雪男」だ。イエティとも言うらしいが、どうやらヒマラヤ山麓の各国で雪男目撃情報があるらしい。著者の旅にはブータンの公務員の方が同行しており、通訳など大変活躍されている。その方々も最初は「え?雪男?そんなのいるわけないじゃないですか!ワハハハハハ」みたいな感じだったのに、著者とともに過ごしているうちにどんどんと神秘に引き寄せられているから楽しい。きっと著者はものすごくパワフルな方で、知らないうちに周りを説得してしまうような魅力のある方なんだと思う。

 

そして著者のキャラクターのなすところが大きいと思うのだが、人々のふれあいの中でブータンの伝統や文化について、一般人が接することができないようなことまでが記されている。きっとここまでのことを聞きだし、調べるには大変なご苦労があったはずだ。とくに祈祷など、秘められがちな文化に接近するには危険すらともなったかもしれない。民俗学的にも学びが多い。

 

不思議な植物探しは結構難航したようだ。これは使えるぞ!と思うと、すでに政府の農林省で情報を集めていたりと新しいものには出会えない。しかし生産者側に立った政府の対応や、徹底的に環境を守り抜くための政策には感心した。著者の分析によると、ダライ・ラマが提唱していた環境を保護する政策に酷似しているという。きっとダライ・ラマの考えを知った国王が政策に取り入れたのでは、ということだ。環境保全を2010年にすでにここまで徹底しているということは、むしろ未来を先取りしていたと言える。

 

仏教にも宗派があり、チベット仏教ブータンの仏教は微妙に異なる宗派となるらしい。とは言え、同じ仏教ということで、ブータン国民のダライ・ラマに対する尊敬心はかなり熱いそうだ。現ダライ・ラマは14代で、調べてみると1935年生まれとのことだ。きっとチベットのみならず、周辺国の仏教徒ダライ・ラマに特別な気持ちを持っていることだろう。

 

人々の心根がものすごく優しく謙虚で、一つ一つのふれあいのシーンが素晴らしい。幸せの国として注目されるようになり、今では多くのブータン関連の本が出ている。中でも本書はかなり早い段階でブータンを探索しているので、これから旅行する人にも楽しめると思う。

 

特に巻頭にある写真がものすごく美しいので一読の価値あり。