Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#196 早く続きを読みたい気持ち vs 終わらせたくない気持ち

 『髪結い伊三次捕物余話 13』

 茜の奉公先である松前藩、藩内政治の結末がでる。

 

もう後戻りできない感。このシリーズも残り2冊となったのだが、15巻目は追悼の意を含んだ作品になっている模様。残すところあと少しか。結末を想うとハラハラしてくる。

 

今回より巻末のあとがきが解説となった。そこに「文庫になるまで約3年かかる」とのコメントがあった。そうか。書かれたのは3年前でも、文庫が出る頃にはすでにあとがきを執筆できない状況だったから12巻目にはあとがきが無かったのだと知る。あまりにこのシリーズにのめりこみ、他の読書が進まないほどに心が傾いている。「早く読んでしまわなくては」と思う気持ちと「ああもう終わりか!もっと楽しんでいたい」という気持ちがせめぎあっているのだが、次に何を読むかはすでに決まっているのでそちらに手を付けたい気持ちが膨らんできてもいる。まあ、あと2冊。じっくり読んでから先に進もう。

 

この13巻目、気になっていた茜の奉公先でのストーリーが多い。松前藩に奉公に出た茜であるが、次期藩主の跡取り問題のとばっちりを受けてしまう。勝手な想像だが不破家の女性はきっと美人だったんだろうなと思う。きりりとしたしっかりと意思を持った強い女性。「凛とした」というのは私が最も憧れる姿なのだが、まさに武家の女性が目指す生き方のような気がしてきた。

 

たしかにこのシリーズに出てくる人から得るものが多い。途中で一気に10年の時を飛び越えはしたが、1冊で登場人物が1年歳を取るという設定なので、続けて読んでいる読者には登場人物の成長を垣間見ている気持ちになる。自分自身が成長したと感じるのはせいぜい背が伸びたとか、体重が減った増えたくらいのことであるのが情けない限りなのだが、物語で成長していく登場人物に思いをはせる事は、何か人の生きざまを俯瞰してみる練習にもなったような気がした。

 

茜はそれが顕著に見える登場人物で、奉公を通して子供から大人に成長した。いつまでも子供のままではいられないのだが、成人した茜が藩の政治の中で揉まれている様子を見る(いや、読むが正しいか)につれ、親戚を見守るような気持ちで手を差し伸べたくなってしまう。今でいえばまだ高校生くらいの世代であるのに、勤め先にて役割を果たすべく奮闘する姿に茜の武家の娘としての強さを感じる。なぜ茜は若くしてこうも芯のある人として生きていられるのだろうか。それが知りたくて先を求めてしまう。

 

茜の奉公先は藩内政治に揺れており、茜は体の弱い次期藩主となろう長男の世話を任されるのだが、周りは体の弱い長男よりも側室の息子を次にと推す雰囲気がある。茜を長男の側室とし、長男には下屋敷に隠居してもらおうと画策するのだが、結果は全く別の道へと導かれた。

 

切ない話が続く中でも、不破家の新しい一員となった栄一郎と母親のきいの存在が明るさを運んで来てくれる。そして、伊三次の弟子の九兵衛がついに嫁を娶った。これもめでたい話だ。ああ、それにしてもあと2冊か!なんとも心が落ち着かない。