Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#670 気分転換のはずが~「私にふさわしいホテル」

『私にふさわしいホテル』柚木麻子 著

ホテルである必要はあるのかな?

 

なんとなく気分転換が必要な今日この頃。最近読んだ本に感化されどこかに行きたくてたまらない。とはいえ、コロナの状況やどんどん増えてくる外国人観光客で溢れている街並みを見ると「もう少し待とうかな」な気にもなる。

 

 

街に活気が戻るのは良いことだ。ただ、歩きにくいのです。人が多すぎて。カフェなんかもう入れないですしね、いっぱいで。ということで、海外ドラマでも見ながら気分転換しようかなーと方向転換してみた。で、今はHuluでこちらのシリーズを見ている。


50年代のロンドンのイーストエンドの貧民街にある教会が運営する産院のお話。シーズン10くらいまであるので気長にゆっくり見るつもりだが、ドラマって見始めると続きが気になり他のことが出来なくなってしまう。それはよくないぞ、とやっぱり旅行関係の本でも読むかと本書を開いた。

 

さて、タイトルを見て、勝手に旅行エッセイ的な作品だろうと想像していた。もしくはホテルを舞台にした小説かな、と。ところが確かにホテルは出てくるも、ホテルである必然性は薄く、全くもって旅行とは関係のないストーリーだった。そのせいかあまりストーリーに入って行けず、読むのにものすごくものすごく時間がかかってしまった。

 

まず、主人公というか舞台というかストーリーは文壇だ。小説家になりたい加代子が、文芸界でのし上がっていくというお話だが、作家というものはこのくらい独特じゃなくてはならないのだろうか。承認欲求や成功欲強めの登場人物が好きな人にはスッキリなお話かもしれないが、もし周囲にこういう人がいたとしたら相当疲弊しそう。というか、読んでいるだけでエネルギー吸い取られたかのような気分になってしまった。

 

小説家を目指し、加代子はとにかく力の限りもがき続ける。大学の先輩である遠藤が大手出版会社で編集者の仕事をしており、最初は先輩の指導の下で作品を書いていた。加代子がどうにかデビューできたのは、ビジネス系の出版社が初めて実施した新人賞でのことだった。受賞者は2名で、もう一方の新人賞はアイドル出身の作家が受賞、加代子の姿は影にかすんでしまう。その後作品を書いても出版社からは何の連絡もない。

 

全く売れていないスタート期、加代子は文豪が宿泊したことで有名な山の上ホテルにて鋭気を養う。同じ日、上のフロアには大御所小説家が宿泊していた。遠藤先輩の話によると、その大御所は先輩の会社の 雑誌に寄せる作品を書いているらしいが朝9時までに仕上がらなければ穴が開く。その穴を加代子のような新人たちの作品で埋めるわけだが、遠藤先輩はさりげなくそんな餌を巻いて去っていった。そこで加代子が暴れ出す、というお話。

 

加代子の性格はよく言えば独創的なのだが、アグレッシブで自分本位な所がある。読み手は登場人物の誰か(たいていは主人公だろうけれど)に心を重ねて読む場合が多い。本書、個人的な好みの問題であるが、加代子タイプの人間は完全に苦手タイプであったのでなかなか本にコミットできず読むのがものすごくものすごくものすごく大儀だった。普段ここまでのことはあまりないのだけれど、加代子の奔放さに共感できる点が一つも無く、「とりあえず今日は10ページ読むぞ。」「今日はがんばって10分は読むぞ」みたいなノルマを設けてやっと読み終えた。

 

登場したホテルは山の上、帝国、ハイアット、オークラ、パレスなどの高級ホテルがいくつか上がっていたが、ほぼ加代子が訪問するような感じで名前があがるにすぎず、部屋の調度品やホテルの様子がわかるような内容にはなっていない。

 

今はものすごく「がんばって」読み終えました、という安堵感でいっぱい。本当はスキップしてしまえば良いのだけれど、やっぱり縁あって購入した書籍なので最後まで読む。読み終えたという解放感が押し寄せてきて、次に読む作品を決めるだけでわくわくしてきた。

 

ああ、やっぱりどこかで気分転換してきたいなあ。