Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#652 癒されたいすべての人へ~「泣きたい夜の甘味処」

『泣きたい夜の甘味処』中山有香里 著

心温める。

 

12月、出張と出張の間がたった数日と異様に短く、何となく気が張ったままで淡々と毎日を過ごしている。そんな時に読んだせいかほろっとしてしまった。

 

深夜の星空を思い起こさせる表紙の背景が美しい。ここはなぜか熊と鮭が営む夜にしかオープンしないカフェだ。そりゃあ熊と鮭の店だから、昼にオープンしてたら怪しすぎる。そしてやっぱり自分たちが素材になってはいけないからだろうか、出されるメニューは毎日一品のみ。それもお菓子に限定されている。

 

この店にたどり着く人は何等かの苦しみを抱えている。仕事や育児で心に余裕がなかったり、愛する人を失う悲しみ、心のバランスが崩れる辛さ、そして自分の健康がむしばまれていく恐怖、それをたった一品のメニューと言葉で心の塊を溶かしてしまう不思議なカフェだ。

 

誰でも失敗はするし、思い通りに事が運ばないことなんて多々あるはず。でもそれが棘となり心に刺さってしまうと、自分で抜くことは難しく、抗っていくうちに棘はより深く刺さってしまう。

 

熊と鮭の組み合わせだし、店の前に雪だるまがあるから、きっとこのお店は北海道にあるのかな。彼らの出すお菓子は、心の棘の周りにゆるりと溶けていつの間にか棘が浮き出てくるような効果があるようだ。「温かい言葉をかけなくちゃ」と構えた文章を作るのではなく、ただふとお菓子について語ったことがお客様には染みる一言として届くのだ。

 

最後にはレシピも紹介されていて、これを作れば私も癒されるかな、などと思ってしまうほどにすべてがほろりと来るストーリー。

 

少し涙したら癒されてきたかも。私もなにか甘いものが欲しいな。