『むらさきのスカートの女』今村夏子 著
謎の世界に放り出された気分。
なんとも不思議な小説を読んだ。本書を購入した理由は「ジャケ買い」。タイトルも謎だし、表紙のイラストも購入を後押しした。
いつもむらさきのスカートに身を包む女が居た。街の人はみな彼女を知っており、どこか奇妙な存在として捉えている。子供たちはまるで肝試しのように彼女に触れることをゲームとして楽しんでいた。大人たちも1日に何度も彼女に会うと不運の前触れだとか、吉兆だとか、勝手なことを言っていた。際立った奇妙さがあるわけでもないのだが、とにかく彼女は街の人の間では誰もが知る有名人であったのだろう。
そんな彼女をずっと見ているものがいる。仕事をしているとかしていないとか、何を食べたとか、何時に公園に行ったとか、事細かにむらさきのスカートの女の様子をチェックしている。その人物が本書の語り手となっているのだが、いつしかむらさきのスカートの女以上にむらさきのスカートの女をストーカーレベルで追い続けるという狂気さが影からひっそり忍びよってくる。
語り手はなぜこんなにも執拗にむらさきのスカートの女を追うのか、その理由はわからない。家族に似てるとか、同級生に似ているとか、もっともらしい説明もあるにはあるがそれは上部を取り繕った理由に過ぎないだろう。だからこそ、むらさきのスカートの女を追う語り手への謎が際立ってくる。
読み進めるにつれて徐々に語り手やむらさきのスカートの女が何者であるのかが知れてくるのだが、キャラクターが「本人」という存在を超えて独り立ちしている。こんな人そばにいたら怖すぎる!というような奇妙さが最後まで膨らみ続ける。そして結局「むらさきのスカートの女」とは一体なんだったんだろうという霧の中をさまようような感覚でいっぱいになる。読了後の謎は表紙のイラストの不思議さを何倍も超える。
表紙に惹かれた購入だったが、内容は表紙の何倍ものインパクトがあった。是非他の作品も読んでみたい。