Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#629 甘い意味かと思いきや、なんと恐ろしい ~「告白」

『告白』湊かなえ 著

ねじれた愛情。

 

久々に日本の小説が読みたい気分が続いているのは、このところ外国人に接しているストレスからだろうか。とにかく手持ちの小説から何か日本のものを!と救命胴衣でも探すような気分でKindle内を探していたところ、本書がすっと出てきてくれた。

 

Kindleだと表紙を気にすることなくすぐに作品を読みだしてしまうので、こうして記録を残す時になって「ああ、こういうデザインだったのか」と知ることが多い。そしてこの表紙もインパクトがすごく、しかも著者の初期の作品ということでその完成度の高さにまた驚く。

 

舞台は中学校だ。担任教師のモノローグから始まる。1年生の終業式の日、担任の森口先生が最後のホームルームで自身の退職について語っている。その退職理由というのが極めてショッキングな出来事だった。

 

森口先生には娘が一人いた。シングルマザーで娘を育てつつ中学校の理科の教師として勤めていたのだが、その愛娘が職場である学校のプールで亡くなった。死因は水死だという。最初は誤って水に落ちたものと回りも警察も考えたのだが、森口先生は偶然それが他殺であったことを知ってしまう。この事件が軸となり、物語は最後まで進んでいく。

 

森口先生が退職を決めたのは、やはり娘の事件によるものだった。しかし、喪失感によるものではなく、その犯人が自分の受け持ちのクラスにいたからだという。そしてそれを実名は出さずとも、クラスメイトには確実に伝わる方法で事件についての経緯を語った。そして復讐とも思われる言葉を残し、森口先生は学校を去った。

 

ミステリーの中でも子供による残忍性というのは恐ろしさが増すような気がする。中学生はまだまだ子供かと思いきや、すでに知恵を持ち善悪を知っている。無垢な存在だと思っていた子供に見る、自分本位な理由から起こる恐ろしい事件にぐいぐいと引き込まれてしまう。

 

章が変わる度に語り手は変わる。人はみな、誰かの子供である。その後、大抵の人は今後は自分が親になる。その立場が入れ替わり、ねじれ、関係を織りなしていく。さらにはそこにあるはずの愛の形が物語をどんどんと暗い世界へと導いていく。次の章へ移る度に、新しい扉を開けるような気持ちになるのだが、その先の世界が恐ろしそうであるが故に覗いてみたくなる。最後までそんな緊張感に満ち溢れていた。

 

映像化もされているそうだ。


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森口先生は松たかこさんが演じておられた模様。好きな女優さんなのでこちらもいつか見て見たい。