Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#619 文化の日、ゆっくり本と戯れたい ~「第三の女」

『第三の女』アガサ・クリスティー

ポアロシリーズ第35弾。

 

文化の日ですね。木曜日のお休みというのはありがたい。明日も休みを取って4連休という人もいるだろう。お天気も良さそうだし、ここらで一休みしたいところなのだが、心の中はストレスいっぱい。今日も読書で心を晴らしたい。

 

さて、年内にアガサ作品の半分は読めたらなと思っているので、時間を見つけては読むようにしている。本作はショートストーリーを含めるとポアロシリーズの40作目となるが、長編では35作目。ポアロ作品も残す所数冊となった。

 

Title: Third Girl

Publication date: Nov 1966

Translator: 小尾芙佐

 

今回の翻訳者は1932年生まれで、戦時中に津田塾に進学され英語を学んだ方だ。出版作品は多いが、アガサ作品は3冊のみで、そのうち一冊はジュニア文庫のようだ。

 

さて、今回は冒頭からポアロが登場、大活躍する。決して椅子に座って考えを巡らせるだけではなく、昔のように現場を訪ね、人に会い、積極的に活動している。30作目を過ぎたあたりから、年に1冊は発売されていたポアロシリーズが2年おき、3年おきとインターバルが発生しているので、リアルタイムに読んでいた人であれば時間の経過とともにポアロが年を重ねていく様子を感じられたかもしれない。でも1作目の出版が1920年だから、実に本作で40年目!本来なら100歳近い設定だ。

 

本作で面白かったのは、当時のイギリスの背景が感じられたことだ。ビートルズが登場している。ビートルズの音楽もファッションも当時は相当に「新しい」ものとして社会に衝撃を与えたという話を聞いたことがあるが、ここでもその様子が残されている。実際ビートルズの活動は1960年から1970年だから、本作はちょうど人気爆発中というあたりだろうか。本の出版と同じ年にビートルズが来日しているので、実際に映像で見たイギリスの様子を想像しながら読書する楽しみもあった。

 

スタートはそんな今風の若い女性がポアロを訪ねてきたことから始まった。しかも初めて訪問するには少々常識外の時間だった。その娘は「自分は殺人を犯してしまったかもしれない」と告げる。興味をひかれたポアロは話を聞いてみようと娘を部屋に通したが、なんとポアロを見て「お年寄り」だと失礼を詫び、内容を語らずに帰っていった。

 

年寄りと言われ少なくともショックを受けたポアロは、今回も登場する友人のオリヴァ夫人に落ち込んでいる事情を話す。推理小説作家であるオリヴァ夫人もその娘には興味を覚え、ポアロとともにその娘について調べてみることにした。

 

夫人の広い交友範囲が物を言い、娘が誰かを突き止めることができた。夫人は果敢にその娘の周囲に近づき、そしてポアロも調査を続けていく。するとその娘はサード・ガールであることがわかる。サード・ガールとは、当時のロンドンの不動産の貸し借りではよくあったことのようで、大きな家の賃貸費を女性一人で負担することが難しい場合に、家主が女性のルームメートを求める時に使ったらしい。二人目の居住者を求めるならばセカンド・ガール、三人目ならサード・ガール。ルームメートなのでそれなりに近しくはあるが、プライベートには深く入り込むほどではない。

 

ポアロを訪問した娘は名をノーマと言う。ノーマの家庭環境は複雑だ。父親はノーマが5歳の時に家を出て、別の女性と南アフリカへ旅立った。しかし、現地についてからの二人の生活は円満ではなく、ほどなく二人は別れることとなる。母はそのことをずっと心の澱として抱えており、常にノーマに父を連れ去った女の事を毒づいていた。そんな母も数年前に他界する。父は母の死後、南アフリカで出会った若い女性と再婚した。そしてアフリカでのビジネスで成功し、巨万の富を得た。何の問題もなく暮らせるはずのノーマであったが、学校を出て仕事に就いた今、人生が狂い始める。ポアロとオリヴァ夫人の調査が一歩前進したある日、ノーマが忽然と消えてしまった。

 

ノーマにはデビッドという恋人がいた。画家で、大変に今風で美しい顔立ちだ。オリヴァ夫人に言わせると、まるで孔雀のよう。きっと長い髪で色鮮やかに着飾っていたことだろう。そのデビッドがノーマと一緒にいるところをたまたま入ったカフェで見かけたオリヴァ夫人は、二人の後をつけ、一体ノーマに何が起きているのかを探ろうとする。ポアロはノーマの家族に接触し、徐々に状況が明るみに出た。

 

殺人事件は後半まで出てこない。それが大きな解決を導くのだが、今までの作品とは異なり事件から解決までを語るのではなく、鍵となる事件が起きるまでの背景に焦点を当てた作品と言えるだろう。ビートルズに代表とされるような当時の流行が詰め込まれていることに注目し、そこに楽しみを見つける人もいるだろうが、それは今で言えば「ポスト携帯電話」や「ポストスマフォ」もっと言えば「ポストインターネット」との差に注目することで、推理小説とはちょっと系統がずれるように感じられる。個人的にはいつものような「起承転結」で語る推理も良いが、複数の要因が重なりことが起こる前の様子が書かれている本作にやっぱりアガサ、すごいわー!と「新しさ」を堪能した。読書の楽しみを満喫。

 

評価:☆☆☆☆

おもしろさ:☆☆☆☆

読みやすさ:☆☆☆