Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#611 お母さんからのメッセージ ~「60歳、女、ひとり、疲れないごはん」

『60歳、女、ひとり、疲れないごはん』銀色夏生 著

女性だったのですね。

 

この頃頭がぼーっとしてなかなか物事に集中できない日が続いている。絶対に早く終わらせなくてはならない仕事なのに、どうしてもやりたくない。優先順位的には最上位にある業務なのに、なぜかなかなか手が出ない。困った。しかしどうしてこんなにまで先延ばしにする程に嫌なのか。処置を考えるのが面倒、作業が多そうで面倒、楽しくなさそう、などの理由はあるのだけれど、とはいえそれは他の業務も全く同じこと。そこで思い当たったのが「私、疲れてるのかも」だ。

 

今までは休日も家で何等かの仕事をしていたのに、この頃は仕事を持ち帰っても絶対に目を通すことはなくなった。思えば9月くらいから仕事との倦怠期のような日々を送っているから、やっぱり気持ちがぷつんと切れてしまったのかもしれない。

 

これは自分で自分を癒さねばーと、週末ものすごくおいしいクッキーを買った。それからこの頃お気に入りのカフェのコーヒー豆も買い、豪華なティータイムを過ごして元気回復。やっぱり食べ物の力は大きいですね。そんなことを考えていたら体に優しい、心に優しい食べものについての本を読みたくなった。Kindle Unlimitedで読める本を探しているうちに本書に行き着く。

 

まず、なぜこの本を読もうと思ったかというと、それはタイトルにあった。実は今まで著者の作品を読んだことがない。しかし、書店の文庫本の新刊コーナーに並ぶ著者の本はどれも表紙が美しく、とても目立っていた。ただなんとなく手が伸びなかったのはその表紙から「ああ、恋とか愛とかたまに青春とか、そういうやつかな?」と思わせるものがあり、その手の作品はオースティン姉妹の作品で満足していたことから購入には至らなかった。そしてなんとなく、著者は男性だと思っていた。つまり、私の勝手な著者に対する妄想は「恋愛小説を書く男性作家」だったのだ。

 

だからタイトルを見て驚いた。まずは年齢に驚いた。昔から活躍しておられたけれど、せいぜい40代くらいと思っていたのに還暦を超えておられたこと。そして何より著者が女性であったことに「え!?女性だったの!?」と思わず声が出たくらいに驚いて、とりあえず本書を覗いてみようという気持ちになる。

 

こちらはあとがきにある著者の御姿。60歳には全く見えない!それにしてもたくさんの食器をお持ちのようで、お子さんとの暮らしの中で増えていったのかもしれないな、などご自宅の様子に思いを巡らせる。ウッド調のキッチンのお写真には所狭しと食器が収められていた。

 

さて、本書の内容だがほぼ写真集である。それも今まで読んできた料理やフードコーディネイト本とは一味も二味も違う、ものすごく普段着な感じの一冊だった。作家さんのプライベートをいきなりガツンの目の前に突き付けられたような作品だ。

 

まずタイトルにある「疲れないごはん」を私は「体を疲れさせないごはん forシニア世代」と理解してこの本を読むことにした。両親の話を聞いていると食の好みがどんどん変わり、食事の内容だけではなく食べる時間や回数も変わって来たという。よってシニア世代も元気もりもり活動できるような栄養面を考えた食事だと思っていた。

 

ところが、内容は「作ることに疲れない料理」だった。お子さんが同居されていた頃は家族のことを考えてお料理をされていたそうなのだが、家族のためとなるとメニューや品数、そして量などあれこれ考えることが多い。大鍋にカレー作って1週間過ごすとか育ちざかりのお子さんには「飽きた!」と言われてしまいそうだし、俗にいう体によさそうな茶色系のごはんは特に興味を示さないだろう。シチューだ、ピザだと華やかさも必要になる。

 

それが一人のごはんとなるとものすごくシンプルでも満足できる。一人飯と家族飯は同じように丁寧に作ったとしても内容は変わってくるだろう。本書は著者が食べたいと思って作ったものをご自身で撮影し、時系列順に並べている。横に小さなメモ書きがあるのだけれど、ものすごく手作り感にあふれた一冊である。

 

まず、メニュー別のページがあり、毎日作るようなものはこのように文頭でまとめて紹介されている。ほら、一般のレシピ本とは違うのですよ。まず、写真はすべて著者が上から撮影したもののみで、人にお見せする用やプロが撮った写真とは一線を画する日常感に溢れている。

 

続いて日々のメニューに移る。これが最後まで延々と続くのだが、毎日の記録ではなく日付を見ると飛び飛びの記録となっている。正直、「1食に結構な量をお召し上がりなのですね」くらいしか感想が浮かんで来ず、この本はどういう層をターゲットにして書いておられるのかな?と考えた。

 

これは一人暮らしとなったお母さんが家族に向けて「大丈夫!お母さん、元気にやってるから!ごはんだってちゃんと食べてるよ!」とSNSで写真で報告しているようなほっこり系の内容で、それをご家族がアルバムにまとめました、そして出版してみましたなイメージがしっくり来る。著者の手書きのメモやイラストがあるのだが、この良さは著者に近い方にしか伝わらないメッセージのように思えるし、なにより素人の手作り感が全面に打ち出されており、これは著者の今までの作品を読んできた人にしかわからない世界なのだろうか、と今までの料理本との差に驚いているところ。ファンの方であれば何か喜びを見つけられる一冊かもしれない。

 

疲れないごはん本探し、まだまだ続きそうです。