Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#460 高3の過ごし方~「戸村飯店 青春100連発」

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾まいこ 著

戸村兄弟の10代終わりの過ごし方。

 

いつ購入したのかも思い出せないくらい、長くKindle内で眠っていた一冊だ。この頃はものすごく気分転換を要しているのでどんどん小説を読んで気持ちを高めていきたいと思っている。

 

さて、「飯店」という言葉、私はやたらと惹かれてしまう。そもそもは学生時代に3駅隣町に「長城飯店」というお店があった。そこのチャーハン定食がものすごくおいしくて、週1くらいのペースで通っていた。ああ、懐かしい。中国からいらした店長さんが腕を振るう小さな店で、今はもう閉店してしまった。あのチャーハン以上の物、食べたことがないかもしれない。

 

台湾に行った時、「飯店」がいっぱいあった。台湾ではホテルを飯店というらしく、たくさんの「飯店」の文字に変に気分が高まった上に、どこで何を食べてもものすごく美味しく、帰りたくない!と思うくらいに楽しい時間を過ごした。なので「飯店」にはつい良い事が待っているような期待を抱いてしまう。いや、中華飯が好きなだけかな?

 

本書は高校3年生の兄貴ヘイスケと高校2年の弟コウスケの物語だ。二人の実家は大阪の下町にあり、家族で戸村飯店を営んでいる。おなじみのお得意さんたちもみんな町の人で、下町特有の壁の無さがある。むしろ初めての人には敷居が高いというべきだろうか。

 

兄ヘイスケは容量が良く、顔も良く、下町っぽさのないタイプ。作文が得意で、小説家になる!と高校を出てすぐに東京の専門学校へ行くことを一人で勝手に決めて来た。弟コウスケは下町での生活を満喫している。そんな二人の高3の時期の2年間を交互に映し出す物語だ。

 

兄ヘイスケが東京に出て来た下りを読んで、ちょっぴり反省したことがある。関西以外の地域に住んでいると、昨今のお笑いの影響もあるとは思うが大阪の人は面白いという思い込みが強くある。みんながみんな陽キャラで、ネタとして語られる関西人の姿が本当のことと思い込んでいる節がある。おばちゃんがいつも飴持ってるとか、アニマル柄ばかり着てるとか、会話のテンポが完全にボケとツッコミでなりたってるとか。これ、大阪の人にしてみたらものすごーくストレスなんじゃあないだろうか。何ごとも決めつけるのは良くないなあ、と小説とは別のことを考えたりも。

 

さて、高3といえば進路を決める大切な時期で、進学するとか就職するとかあれこれ考える際にふと振り返る瞬間があるように思う。まだ17年くらいの人生、思い返すことは家族との関係や友人との関係がメインになるのかもしれない。ここで少しでもぼんやりと心の中に漂うトラウマや弱みや強みの形を掴み取ることが出来れば、少しだけ人生の方向が定まってくるのかもしれない。自分が何をしたいのかなんて大人になってからだってよくわからないし、向き不向きなんてもっとわからない。周りと同じように動けば「とりあえず」進学とか、「とりあえず」家の仕事を継ぐなどなど、まずは一歩前進はするけれど「これでいいのかな?」という疑問は残ってしまう、と思う。

 

ヘイスケとコウスケも家族と、戸村飯店と、町と、自分とをぐるぐると考えつつ、将来の「俺」の姿を探る。戸村飯店の主人である父親と店を切り盛りする母親は二人をしっかりと見守っているし、町のみんなも家族同然に寄り添っている。それが支えにもなれば負担にもなるわけだけれど、二人が前に進んでいく姿は読んでいて嬉しくなる。ほっこりと温かな思いが湧いてくる。

 

コウスケの高校最後の1年の過ごし方は「満喫したる!」という意気込みが感じられてこれまた面白い。部活も引退し、学校行事に没頭し、恋をし、友達との友好を深め、まさにタイトル通りに青春100連発だ。でも、きっと本人は「今、めっちゃ青春してる」なんて思ってはいないはず。後々「ああ、あれは青春だったわー」と思うようなことが山のように綴られていて、共感できる人は多いはず。

 

一方ヘイスケは進路の悩みをどうにか自分の力で解決しようと翻弄する。大人になりきっていない10代後半、それでも高校を卒業するとぐっと大人の世界に近づいていく感がすごい。兄弟同士の本人たちはそんなに仲良くないと思っていても、いざとなったら最後に頼るのはやっぱり兄弟。いいなあ、と思う。

 

疑問を抱いている自分を把握しつつ、あれこれ挑戦することで考えが定まってくるものなのかもしれない。大人になって良かったことは、バイトなり就職なりで自分の力でお金を稼げるようになり、自分の「好き」を探る余裕が出来たことかと思うけれど、それでも「これでよいのかな?」とう気持ちは一生持ち続けるのかな?という思いもある。高校生の頃は受験が一生で一番辛い事だと思っていたけれど、大人になればまた質の違う悩みが湧いて来て、二人の姿に自分のこれまでを思い出したりしていた。

 

受験の時期、なかなか小説を読む余裕なんてないとは思うけれど、ぜひ今まさに進路の岐路を見極める方にはおススメの作品。上に書いていることに反しているようだけれど、大阪人兄弟の会話も面白いし若者を応援したくなる一冊だった。やっぱり「飯店」は裏切らないな!