Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#454 水色の木造二階建て洋館を守ろう!~「世田谷イチ古い洋館の家主になる 1」

『世田谷イチ古い洋館の家主になる 1』山下和美 著

旧尾崎邸の保存について。

 

昔から山下和美さんのマンガが好きで「天才柳沢教授の生活」シリーズは全巻紙版を持っている。この間インテリア関連の本を探してる時、本書がおススメの中に上がって来た。著者のお名前と表紙の水色に惹かれさっそく購入した。

 

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たしかに。都会のなかにいきなり木造の洋館が現れたら目を奪われるだろう。それが水色で西洋風な窓なんかあったら、つい覗いてみたくなるに違いない。

 

そう、この館は実在します。この家は尾崎行雄という日本の法に深く携わった方の家で、もともとは西麻布に建てられたものらしい。後に世田谷区豪徳寺に移築されたとのことだ。著者はこの洋館の惹かれたことから、この地域に家を建てることにしたというから、よっぽど魅力的なんだろうと思う。

 

 

こうして写真で見ると水色の家って緑が映えますね。日本風な木が植えられているけれど、プラタナスとかイチョウとかだったら一見「これはどこかしら?」と思うかも。あとこの門も和風だなあ。とは言え、色のせいもあるけれど、古い建物に見られるような驚ろ驚ろしい「夜は無理!」な雰囲気が全くない。明るい健全な洋館に見える。

 

歴史的建造物というのは出来る限り保存して欲しいとは思うけれど、安全性を考えた時に保全より建て替える方がベターという場合もあるから難しい。この物件も土地一体を道路にするという話があり、取り壊しがほぼ確定しかけていた。それを著者や持ち主の関係者、建築家さんなどがどうにか保存しよう!と取り組む内容である。

 

このマンガが描かれている時にも洋館には人が住んでいた。間借りしている方がいらしたくらいだから、生活できるように保全されていたに違いない。この間、新しく道路を敷くにあたり土地を売ったという人の話を聞いた。なんでも一生かかっても稼げないくらいの額がぽーんと入って来たらしいから、この洋館にもなんらかの大人の事情があったに違いない。1巻ではプロジェクトを推進する不動産業者との面談で内容が終わっているが、これがどうなっているのか気になるところ。

 

明治、大正、昭和初期に建てられた木製の建物はよっぽど手入れをしない限り保存は難しいと思う。ほぼ歴史建造物扱いされない限り、個人の力で維持していくとなるとよっぽどの資産家でなくては無理だろう。だから再開発を選んでしまう気持ちもよくわかる。

 

とは言え、古いものは壊してしまえば二度と手に入れることはできない。そっくりに作ってもレプリカなわけで、全く同じものはもう復元できない。写真や映像資料で記録するという方法もあるけれど、実物にはかなわないのは誰もがわかること。歴史的な資料としても価値があるが、アートとしてもその当時の美術が施されているわけで、やはり壊すには忍びない。絵画などはしっかり倉庫に保管できるが、建築物となると美術的に素晴らしい作品であっても保存の問題でやはり躓いてしまうのではないだろうか。

 

そろそろ2巻が出るらしいので、この後どういう流れになったのか、そして今はどうなっているのか気になるところ。旧尾崎邸は著名人が一歩動くことで大きな波が起き、保全の方向に進んでいるようだが、きっと日本各地に似たような案件があると思う。国としてすでに重要文化財になっているものだけでなく、「過去」を保存する活動にも力を入れて欲しいと思うところだ。

 

今、あの吉原が、あの鹿鳴館が、数々のお城が残されていたら!どんなに価値があるだろう!と、つい思ってしまう。そもそも都内にある100年以上前に建てられた建造物が空襲からも身を守り今私たちの目の前にあるというのは大変貴重なわけですよ。保全可能な歴史的建造物は一つでも多く後世のためにも残していきたいですね。