『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ 著
繋がれ築かれる家族の絆。
10月に入り一気にコロナムードが緩和した東京だが、緊急事態宣言の解除とともに今まで止まっていたものが一気に動き出し、他県への外出や出張がどんと押し寄せて来た。確かに1年以上も自由な往来もなく、出勤すらままならなかったわけだから仕方のないことだろう。
普段家では全くもってテレビを見ることがないのだが、出張に出ると現地の番組が目新しくてついつい見てしまう。朝は時計代わりにテレビをつけているのだが、そこで本書が映画になったというのを見た。永野芽郁ちゃんが主人公で、その父親が田中圭さんだという。その年齢差で親子?と番組を見ながら不思議さがつのり、そのままテレビに見入ってしまった。
一体どういうこと?という肝心の情報までは放送されなかったのだが、そういえば確かこの本、購入済のはず…と早速Kindleをチェックしたら買ったまま忘れていたようで、その場ですぐに読み始めた。
主人公は優子という高校生で、森宮さんという会社員と暮らしている。読み始めてもしばらくはその二人の関係はなかなか見えてこない。森宮さんは東大卒で一流企業に勤めているらしく、自分で何度も「親だ」と言っているので二人は親子の関係なのだろう。そして優子はなんども苗字が変わり、森宮姓を名乗る前は3つの苗字があった。ストーリーはその昔の苗字の順番に優子にどんなことがあったのかを紐解いていく。
高校生の優子が「今」だとしたら、過去の優子を振り返ることで子供の頃の優子がストレートに感じている喜びや悲しみ、そして成長過程で心に折り合いをつけ「今」に至る流れとなっており、それが作品の中で数度繰り返されるうちに読者も優子を見守っているような気持ちになる。
まだ高校生なのにこんなにも大人で、振り返る子供時代もやっぱり無邪気な子供ではありながらも大人を支える側にいる優子の健気さに涙。
先に宣伝を見てしまったせいか、読んでいる間はずっと優子と森宮さんを二人の俳優さんの姿に重ねて読んでしまったのだけれど、後半に差し掛かるにつれ「森宮さん像」がちょっとぶれて来た。映画のサイトを見てみると、原作にはない登場人物もいるようだけれど、私は小説だけで十分に堪能できたと思う。涙を誘うシーンもありで、秋の夜長に読むには最適の一冊だった。