『ホロー荘の殺人』アガサ・クリスティー著
ポアロシリーズ第26弾。
10月、緊急事態宣言が明けてからというもの、どっと忙しい日々が続いている。ここには必ず記録として残しておきたいと思っているのだけれど、読後すぐのアップが遅れているのがなんとももどかしい。
特にアガサ・クリスティーの作品を読むようになり、一つはっきりわかったことがある。翻訳された小説は、翻訳された文章のスタイルと読者との相性により読書時間に大きな差が出る、ということだ。
昔、千野栄一先生の書籍に原語で読むことが必ずしも語学上達につながるものではない、という内容の話があり、シャーロックホームズの「まだらの紐」を例として挙げている部分がある。
英語を勉強するにあたり、自分の好きな小説を原書で読もうという人、要注意ですよ。ちゃんと頻度の高い単語から身に付けるべきですよ、という千野先生のアドバイスなのだが、推理小説には日本語でも滅多に使うことのないような単語が多出する。ここに「まだらの紐」が出て来たのも、よっぽどその分野の研究をしている人でなければ一生のうち一度も口に出すことのないような動物の名前が出てくるからで、それを一つ一つ辞書でチェックして覚えるなんて無駄です、という例として挙げられている。
それが頭に残っていて、なんとなく推理小説を英語で読むにはまだまだ難解な点が多すぎて私には無理、と思ってきたのだけれど、日本語で読んでも負荷がかかりすぎてどうにか改善策練らなければならないところまできた。つまり、今回も翻訳との相性が悪かったということで、本当に一介の読者のくせに翻訳者のご苦労もよそに偉そうなことを言って申し訳ないのだけれど、読書の間に原語を確認したり、「私ならこう訳すかな」とストーリーからそれて雑念ばかりが浮かんできてしまうのが残念でならない。アガサの作品の中でも数時間で読み終えられるものもあることを考えると、やっぱり相性はあるんだろうなぁと思わずにいられない。
さて、本書の基本情報から記録しておく。
Title: The Hollow
Publication date: 1946
Translator: 中村能三
今回の翻訳を担当された中村能三さんは1903年生まれで東京専門学校英文科卒とのこと。本書も1977年の翻訳とのことなので、すでに改訳版が出てもおかしくない時期に来ているはずだ。
ストーリーはポアロの別荘の近くのある貴族の一族を巡るお話で、その貴族アンカテル卿の住む家がホロー荘だ。アンカテル夫妻と妻のいとこたち、そして友人たちが定期的に集まりを持っているのだが、それぞれのキャラクターがかなり濃い。どこか天然なふんわりして危なっかしい妻をはじめ、一癖あるタイプの人たちが現れる。そこへ事件が発生し、ポアロが事件の解決のためにひと肌脱ぐ、という流れだ。
この小説は「心理」が何よりも重要な読ませどころであり、鍵でもある。よって、すっと流れが頭に入ってくるべきところ、翻訳具合で躓いてしまうのが何よりも残念。キャラクターの中にイライラさせるタイプの人がいるとはいえ、読んでいてここまで頭に入ってこないほどに飽きてくるようではキャラが立ちすぎというもの。最後まで読んで思ったのは、これは本当に面白いストーリーのはずなのに...(英語で読みなおそう)だった。
今までの作品とはことなった構造に、人の心の陰陽など、仔細に渡っての緊張感がある素晴らしい作品だと思うのだが、とにかく「改訳出して」以外の想いが出てこないのが残念すぎる。でも作品は絶対に面白いので、英語版を購入したほどだ。
あまりにも文体に引っ張られすぎなので、ここなニュートラルにガイドブックに頼ってみよう。
やはりガイドブックでも好評。
評価:☆☆☆☆
おもしろさ:☆☆
読みやすさ:☆