Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#349 江戸で和む

 『福袋』朝井まかて 著

短編小説。

 

ポアロシリーズは続けて読んでいるとどうも心の中に「飽き」が湧き上がってくる。10巻を超えたあたりから少し楽しみのカギを発見しつつあったのだけれど、出版順に読もうと初期の短編集を読んだらまた「飽き」がむくむくと蠢いている。困ったことに楽しい!と思えるに至るまではなかなか読書がはかどらない。読んでは中断、読んでは中断が続き、読むページ数もどんどん少なくなる。やっぱり合間に楽しみを入れていかなくちゃダメだなと考え直し、今日は久々に時代小説を読んだ。

 

朝井まかてさんの本はこれで4冊目だ。本書は江戸での生活を書いた短編集となっており、8つのストーリーからなっている。場所も様々で両国だったり、神田だったり、浅草だったり、登場人物も老若男女が出ては入ってはを繰り返す。時代小説が好きな人は、性善説がベースとなった江戸の人情や粋に触れたいからだと思う。私もそんな一人で、時代小説を読むと「心根優しく、全うに生きなくてはお天道様に申し訳ない」と思うようになってきたから不思議なものだ。そして、そういう筋の人ではなくとも「日本に生まれてよかったなぁ」としみじみ思うのではないだろうか。いや、それは感化されすぎかな。でもそのくらい温かいものが流れ込んでくる。そして映像よりも読書の方がすっと江戸に触れられる気持ちがするのはなぜだろう。

 

8つのストーリーの主人公たちは今風に言えば普通の「都民」の一人で、中にはおうちの店番を手伝う子だったり、アートで身を立てようとがんばったり、家族を必死に支える人もいれば早くに親を失ったり、出会いや別れを繰り返して育っている。どんな風に心を使って生きてきたのかが見えるような気分になる。よくタイムトラベルして過去や未来に行ってしまう‘Back to the futureの日本版みたいな作品があるけれど、もし江戸時代にぽんっと飛んで行ったらこういう人たちがいっぱいいるんだろうな。まるで万華鏡をくるくる回すように江戸の一面がぽんっと飛び出してくるようなお話ばかりだった。

 

時代小説では悪い人はいつも殺人や人を騙したりと明らかに悪者だ。でも本書は「会社にいる嫌なやつ」も出てくるし、「うっとおしい同級生」だったり、「感じの悪い得意先」みたいな人も登場するのでよりリアル感を生んでいる。正義の味方っぽいヒーローも登場しない。実直、善、思いやりだけではなく、不の部分も盛られているところにより惹かれた。

 

 コロナ禍の間、ちょっとでも人の温かさに触れたい人は時代小説を読むと良いかもしれない。朝井まかてさんもおススメだし、おけら長屋もじんわり温めてくれるはず。