Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#337 最近の食を取り巻く環境にGEEKさんたちが登場し始めた理由がわかりました

 『フードテック革命』田中宏隆 他

これからの食を考える。

 

積み重ねてきた努力の結果が花開く姿を見ていると、普段スポーツ観戦などしない人でもひたむきな選手の姿に引き込まれたに違いない。このオリンピックはコロナ禍という厳しい条件の中で、参加した全ての選手の皆さんが普段とは違うストレスや負荷の下で実力を出し切れたのかと考えると、決してそうではなかっただろうと思う。日本選手陣は歴史に残る快挙だったけれど、それは日本のコロナの状況を予測することができるという環境を熟知したアドバンテージや自国開催というモチベーションにより幾分有利だったのかもしれない。海外の選手も言葉や文化がわからないことからストレスもあっただだろうし、競技後のお楽しみとも言える観光やショッピングもできず、本来ならばこれでもか!というほど日本を満喫して頂きたかったのに残念でならない。何もできなかったことに歯痒く思う人も多いことだろう。その一方で国民を代表して活躍して下さったボランティアの皆さんに敬意を表したい。

 

さて、期間中は何かと選手村の食べ物が話題に上ったけれど、思えばコロナ禍が起きる前は競技を見に来る海外からの観光客に向けた食のサービスについての不安が話題になっていた。例えば宗教による食事の制限、ベジタリアンやビーガンなど食事にこだわりを持つ方々へ東京はしっかり対応できるのか、というものだ。ビーガン食はわりと難しい。日本の場合、醤油や出汁など思わぬところに落とし穴があったりするからだ。

 

実際、オリンピック期間中の選手村では「餃子がうまい」とか、記者たちからは「コンビニ食最高!」とか、ほっこりする内容もあった一方で、自国で調達した国もあった。アメリカは選手数も多く選手村で普通に食事をした方も多かったようだけれど、一応自国での食材も持参したようだ。一方で風評被害を持ち出して来てマウント取ろうとする国もあったけど、まああそこはそういう所だから…(察し)

 

とはいえ、いざ日本の選手が海外の大会に参加する際には体を整えるという意味で和食を持参するという話もある。食が体を作るわけで、一流選手ともなると口から入れるものはしっかり管理しておられるに違いない。

 

会期も後半になると食品ロスの話もあった。お弁当の大量処分など、少し前に称えられた日本の「もったいない」の精神を真逆に行く行動もあった。暑い中で食材が痛んでしまうことなどもあるだろう。それをいかにうまくロスを出さないように調整するかはこれからのテーマになると思う。

 

本書はそんな食品との新しい付き合い方を提示する一冊だ。例えばキッチンがもっともっと時短になるようなシステムを持ち合わせたらどうなるだろう。機械と人が上手く付き合っていく未来を創造して進化を産もうとしている企業がたくさんある。メニュー選びからショッピングまで人間のやっていた作業が軽減されることだけではなく、食材の栄養から生産方法まで新しい世界が広がり始めている。

 

人口増加や温暖化による食材不足をどう支えていくのかも大きな問題だ。肉食を減らせば二酸化炭素の排出量がぐっと減るというような話もあるけれど、とすれば肉を食べたい人は今後どうするべきか。代替肉の研究もどんどん進んでいる。

 

いろいろな発展が10年後、20年後の日本の食の背景を変えていくかもしれない。その先の世界の姿を連想させてくれる一冊だった。冷蔵庫が出来て食を取り巻く環境は大きく変わった。私はこれはまだまだ改善の余地があると思っているのだけれどガスコンロが主流だった各家庭のキッチン事情もここ30年でIHの普及率がぐんと上がっている。電子レンジにはオーブン機能がついていて当たり前になったし、家電は機能が多彩になってきている。

 

それがもっともっとパーソナライズされた世界を描いているのが本書で、市場の未来を考えるにあたっての調査は大変読み応えのあるものだった。みんなが同じシステムを使ってはいるけれど、「私」が食べたいもの、食べなくてはならないもの、それぞれ個人に合わせたプランを検知し、うるさがられない程度におせっかいにならない程度にさりげなーくアピールしてくれるような世界がいつかやってくるようにに思えてくる。一体これからのキッチンには何が起こるのだろう。食とITとか一見つながらない別の世界のものがなぜか今注目されている。最先端の世界を知るにはもってこいの1冊だと思うし、逆にこれ以外に類似の書籍なんて多分ないに違いない。とにかく徹底追及された内容で学びに溢れていた。

 

料理好きとしてはどんな便利なものができるのだろうという期待半分、料理の手間が機械化により一定化することでインスタントのようにみんな同じようなもっさりとした大まかな味の料理ばかりが食卓に並ぶのでは?という危惧もある。便利な世の中も良いけれど、米は土鍋で炊きたい!とか、おひつ最高!とか、味を追求した結果、昔に回帰したというケースもあるのでこれからがより一層楽しみな分野だ。