妻を亡くした鈴木の復讐。
現代の日本を舞台とする小説の中でも事件ををテーマとするものは今まであまり読んでこなかった。ドラマや映画だと割とさらりと見ているのだけれど、読書となるとぐっとのめりこんでしまう感が強くて苦手としていた。特に人の命に関わるシーンではすべての不安がのしかかってくるような何とも言えない気分になってしまう。これが海外が舞台だったりすると翻訳の加減なんかも影響するのかもしれないけれど、心のどこかで「これはフィクション」というセンサーが働いているので日本のものよりも一歩引いた目で読書を続けられる。ところが日本の作家さんのものは言葉の一つ一つ、行間にまでも緊張感が立ち込めていて息を飲む瞬間が続く。
この本も最初から最後まで緊張感が続いた。登場人物が3人。「鈴木」「鯨」「蝉」がそれぞれが主人公となって話が展開していく。鈴木は元教師で妻をひき逃げされ、その犯人への復讐を考えている。鯨は大男で自殺をさせるのが仕事。蝉はナイフを使った殺し屋だ。登場人物の職業だけでも普通ではないのだけれど、読み続けていると本当にそういうことがありそうな気持ちになってしまうのが恐ろしい。
章が変わる時、それぞれの名前が印鑑のようなデザインで登場する。その印鑑が「確認しました」「本当のことです」と言っているかのようで、読み進めるにつれて最初はそれぞれ異なったストーリーであったのが繋がりを見せてくる。それがまたプロジェクトの進行具合の議事録を見せられているような気持ちになるから不思議だ。
著者の作品はとても人気が高いということは知っているのだけれど、上に書いたような理由で今までなかなか読んでみたいという気持ちになることがなかったのだけれど、Kindle Unlimitedで有名な作品が読めるということでこれは良い機会とダウンロードした。読了後の「ああ、こちらの世界に戻れた」のような安心感がすごかった。帰ってきた~!と緊張が一気に溶けた感じ。