Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#274 ざんぎとか、甘納豆入りお赤飯とか... 北海道あるある

 『弁当屋さんのおもてなし 1』喜多みどり 著

札幌に転勤した千春の生命線、くま弁。

 

これを良しとするか悪しとするかは個人の感覚によるものだと思うが、検索内容やショッピング内容からおススメ商品を教えてくれることに「便利」もしくは「個人情報の漏洩」と判断が分かれるところだろう。ことAmazonの書籍の紹介について、私は大変に便利なシステムだと思っている。書店でだって一日中徘徊したとしても見落とす本はたくさんある。それを膨大な書籍数のネット書店なら尚更、面白そうな本を探すのは至難の業。

 

大型書店を琵琶湖、ネット書店を海と例えればわかりやすいかもしれない。琵琶湖は「海ですよ」と言われれば信用してしまうほどの大きさだ。でも湖には広さの限界がある。だからその地域の人など詳しくさえあれば特徴を理解することができる。天候や季節の特徴、収穫できる魚やその味までもいつしか知識として蓄えることができるだろう。一方海は広すぎてその特徴すらスポットごとに異なってくる。しかも別の国にもつながっているし、知らない船とかもガンガン行きかうし、魚は毎回同じ動きをしてくれるわけではないし、どこか遠い所の影響が周回遅れで波及したりもする。計り知れない大きさだ。大海をすっかり把握するのは不可能に近く、手漕ぎの船では危ないこともある。琵琶湖であれば、いつしか泳ぎ切ることはできるだろう。しかし海はどうだろう。泳ぎ切るのはほぼ無理で、出来たとしてもドーバー海峡とか限定される。しかも水はしょっぱく容易に人を飲み込もうとする。

 

だから、広大なネット書店の中から自分好みのお話があることを教えてくれるサービスは何とありがたい事だろうか。同様にSportifyやNetflixにも好みを広げる一助を得ている。本書もある日Amazonのおススメにぽんと上がってきた作品だ。ラノベの表紙はイラストが鮮やかで楽しそうなのが良い。今回は食べ物の絵と舞台が北海道であることに惹かれ購入してみた。

 

突然札幌のコールセンターに転勤となった千春は、慣れない北国の生活に苦戦している。仕事が軌道に乗るまでの準備だけでも大変なのに、環境の変化が千春を襲う。雪道を歩くことにすら苦戦しているような状態で、どんどんと心身ともに弱りかけていた。千春の家はかの有名な繁華街「すすきの」のはずれで、駅から徒歩で10分もかからない。が、雪が行く手を阻む。

 

ある日、残業で遅くなった千春はおなかをすかせてどうにか家への帰路についていた。途中母親と電話で話しつつ、ひとまず家まで向かう。何を食べようか、コンビニに寄ろうか、冷蔵庫に何があっただろう。そんなことを考えていたら雪道で軽く人にぶつかり転んでしまう。ぶつかった人は丁重に謝ってくれたので、千春は怒ることもなくとりあえず起き上がった。雪道とは言え、車道は濡れている。服も汚れたが家はすぐそこだ。

 

ぶつかってきた男性はなにやらウキウキした様子で、手に何かをぶらさげていた。袋だ。よく見ると「くま弁」と書いてある。こんな所に弁当屋が?しかも夜も23時を過ぎているのに。千春は横の路地をのぞいてみた。すると古い小さなお店に「くま弁」とある。空腹だったこともあり、千春はお店に吸い込まれるように入っていった。

 

店員はさぞかし驚いたのだろう。その日の千春は何時間も食事をしておらず、体調も万全とは言えなかった。なのに、注文は「ざんぎ弁当」だという。ざんぎはおなじみの北海道のソウルフードで道産子版から揚げなのだが、道民は「から揚げではない」と言うジューシーな鶏肉の揚げ物のことだ。くま弁の店員は、千春にいくつかのことを聞き、すぐに弁当を作ってくれた。

 

家に帰って弁当をあけた千春の前には頼んだはずの「ざんぎ弁当」はなく、鮭かまがのかっていた。おかずも消化によさそうなものばかり。そしてメモにはなんと近所にある病院のメモまで入っていた。そもそもこの北海道の転勤は千春が望んだことではなく、本来行くはずだった先輩の代打としての人事だった。先輩にはいつもお世話になっていた。しかし異動の直前に先輩の妊娠が発覚、そしてすぐに結婚の日取りが決まったという。実は千春が付き合っていた人はその先輩の夫となる人だった。

 

いろいろな辛さが千春に乗りかかってきた冬、千春は「くま弁」に出会い、鮭かま弁当を食べて元気をもらう。くま弁は千春に魔法をかけたかのように、すっと心を解き、健康な日々を取り戻すきっかけとなる。

 

北海道の料理ネタ、一冊読んでいる間に何度も席を立ちパソコンの前に立ちたくなる。食材が出てくるたびに食べたくなり、ついにはまずは都内で手に入らないかと検索し、そのうち「いやいや、北海道行くしかないわ」とホテルやフライトスケジュールを調べまくり、途中でハッとする。ああ!私そういえば本読んでたんだよ!恐るべし、北海道食材。

 

本書の中で北海道銘菓が一つ出てきた。千春がお土産を頼まれ、代わりに選んだものなのだが、きのとやの「ピュアミルク」という商品が出てきた。千春は札幌駅前で購入したようだ。ミルク餡のまったりとした甘さが良いらしい。早速検索してみたのだが、現在きのとやのサイトではヒットしてこなかった。

 


今は廃盤となってしまったのかもしれないが、どうやらセブンイレブンのミルク饅や博多通りもんに似たお菓子のようだ。

 

ところできのとやと聞いてピンときたのはRINGO。アップルパイの専門店だ。私はミッドタウン日比谷店をよく利用するが、季節の素材などを使ったものもあって楽しい。アップルパイ好きとしては大きさも手ごろでその食べやすさから買わずには居られない一品だ。

 


この作品、マンガ化もされている上にまだまだ続編があるようだ。続き、読んでみようかな。気が付いたら飛行機に乗ってそうな自分がいて怖い。