Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#273 味覚を伝える難しさ

 『極道めし 1』土山しげる

昔食べた美味しかったものの記憶を賭けて正月の一品を得る。

極道めし : 1 (アクションコミックス)

極道めし : 1 (アクションコミックス)

 

 

ついに5月も1/3が過ぎてしまっている。コロナ禍があってからというもの、時間の感覚がずれている気がしてならない。やっと一息つけると楽しみにしていたGWが終わり、次は何を楽しみに生きていこうかと考えるのだが、以前は「旅行」が圧倒的なイベントだった。この頃は家の中でまったりする時間が欲しくてならない。

 

2回目までは緊急事態宣言中は在宅勤務が続いていたが、3度目ともなると「在宅」という言葉すら発せられず会社からなんの指示もなかったのは恐らくGW前の繁忙期だったからだと思いたいところだ。在宅勤務=おうちでまったり、ではない。むしろ切り替えが難しいように思う。家で働く場合でも仕事のスペースを確保できるならばそれほど苦痛を感じないかもしれないが、生活空間で仕事を続けていると気分転換がままならない。

 

とはいえ、コロナはまだまだ完全に終息したわけではないし、連日インドの状況を報道しているBBCを見ていると先はまだまだ長いのではと懸念してしまう。なんとなく悲観的になりそうではあるが、きっと落ち着くと信じて日々を過ごしたいと思う。

 

さて、Kindle Unlimitedに加入したのだからここは普段なかなか読むことのないものを読んでみようと雑誌やマンガをチェックした。マンガは「料理」をテーマにするものを読むことにしているのだが、思えば少年マンガに出てくる料理モノを読んだことがなかった。ひとまずぱっと目についたこちらを読んでみた。

 

舞台は刑務所。服役中のある部屋での話だ。時期は暮れが差し迫る12月の終わりのことで、新年に出されるおせちのおかずの中から一品をもらえる権利を得るための「賭け」をすることとなる。この賭けはクリスマスに行われる。供されるものは各自の経験で、いままで食べた美味しいものについて語り、最も食べたい気にさせたものに正月のおせちの中から一品を与えるというものだ。

 

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それぞれが異なる罪でここにいる。年齢も様々、育った環境も異なるなかで共感を得られる美味しい話とはどんなものだろうか。

 

この作品は料理というより食べる側が主体となるグルメ本に近い。記憶に残る料理をいかに美味しいものであったかを伝えるという食レポがテーマとなっている。この本を読んでいて思ったのだが、海外旅行に行き衝撃を受けるほどに美味な料理に出会ったとしよう。名前も舌を噛みそうな感じで、日本でもほとんど知られていない。それをどんな料理であったか説明するのは至難の業だ。レシピ本であれば写真と使う材料からなんとなく味や香りや食感を想像することができるけれど、食レポともなると大変難しい。

 

ここで「マクドのチーズバーガー」とか「KFCのチキン」とか「吉野家の牛丼」と言えば、誰もが簡単にその味を共有できると思う。経験した味を記憶し、そこから美味しいとか美味しくないという判断、好みを作っていくわけだが、みんなが共感できる味というのはいとも簡単に説明出来てしまう。そしてそれを比較に新しい食べ物を説明すれば、割と伝わりやすいだろう。

 

一方でそれが「肉じゃが」とか「とんかつ」とか「ラーメン」など誰もが知ってる身近な料理となると、地域性や家庭での事情が加わりむしろ曖昧になるかもしれない。「ラーメン」と聞いて、博多の人は即座にとんこつを、横浜の人は醤油を、札幌の人は味噌を想像しているかもしれない。使う具材も異なるわけで、「スイートコーンがたまらん」とか「バターのコクが良い」と言われ横浜や福岡の人はキョトンとすることだろう。

 

百聞は一見に如かず。「さあ、食べてみて!」と言えるならば簡単だ。しかし言葉だけで五感を満足させるということに私はいろいろな深みを感じた。なぜなら仕事も同じだろうなと思ったからだ。新規のものを説明する時、まず迷う。新しい素材を見つけ、その可能性を説明する時にもまず迷う。それをどう伝えるか、どうすれば伝わるか。主観ではなく客観的に分析する能力がなければならないのに、雷に打たれたかのような感動はなかなか客観性を伴わないからだ。

 

マンガ、深いぞ。この1冊でもKindle Unlimitedに入会して良かったぞ。しっかり元を取れた気分だ。ただし、この作品の続きを読むかと聞かれるとちょっと迷ってしまう。なぜなら私は作る側の視点で読みたいからだ。他にも面白そうな本を早速チェックするつもり。