Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#268 江戸時代の女子旅

 『ぬけまいる』朝井まかて

女三人、伊勢へ。それぞれの思いは果たせるのだろうか。

ぬけまいる (講談社文庫)

ぬけまいる (講談社文庫)

 

 

ゴールデンウィークも折り返し地点を過ぎ、そろそろまた「会社に行きたくない」とか「学校いや」という人が増え始める時期なのではないだろうか。しかも週末の都内は雨に雷と何とも言えないお天気だった。人によっては「まだ3日も残ってる」だけれど、「もう3日しか残っていない」と捉える人もいる。私はその中間あたりで、やりたいことリストと週末のルーティーンリストのうち、残っているものをチェックしながらスケジューリングしているところだ。3日間、存分に楽しみたいと思っている。

 

今まで運が良かったと思うのは、日々の生活に辛いと感じることが少なかったことだ。大体の嫌なことは人との関係性により発生することだと思うのだけれど、朝起きるのが嫌なほどに何もかも投げ出したいと思ったことは一度もない。これは本当に運の良いこととしか言いようがなく、外で嫌なことがあっても家の玄関を開けた瞬間に大体忘れてしまうし、それでも心がざわつく時には読書でリセットできていた。

 

本書はそんなつらさから逃げ出したいという思いを抱える女性が伊勢を参る話だ。主人公は馬喰町で育った幼馴染の3人で、今はそれぞれ大人となっている。お以乃は母が営む一膳飯屋「こいこい」を手伝う独身、お蝶は実家の小間物屋を一人で支え、店の番頭と結婚して4人の子供の母となりつつも店を切り盛りしている。父親が浪人だったお志花は武士の家に嫁いで日々姑と夫からの心ない言葉に耐えている。

 

かつて3人はその名前から馬喰町の猪鹿蝶と呼ばれていた。華やかだった昔はすでに去り今は三十路手前となった。お以乃はこれと言った手についた仕事がなく、戯作者だった父の影響か昔から読み物が好きだったことから、今度は自分で書いてみるもなかなか受け入れられない。お志花は堅苦しい武家に嫁ぎ、貧しい実家を支えることができているが、町育ちと家では馬鹿にされ続けている。義父が亡くなってからというもの、出世にしか関心のない養母と夫に心を打ち砕かれていく。お蝶は4人の子持ちで、実家の小間物屋をたった一人で持ち直したほどの商才がある。ただ、親にも妹にも夫にも子供にもその苦労は理解してもらえない。

 

それぞれの辛さがある日はじけた。事のきっかけはこの頃めっきり3人で集うことができずにいたのだが、偶然お蝶とお志花が同じタイミングでお以乃を訪ねたことにあった。すでに限界に達していたのはお志花だったようで、話の流れからお伊勢参りをすることとなる。

 

江戸から伊勢まで、今だってお参りするには新幹線に乗り、名古屋で乗り換えなどなどどんなに早く駆け巡っても日帰りでは時間が足りないだろう。江戸時代は東海道中山道を通って歩いて巡ったわけで、数か月の月日を要したことだろう。しかも江戸時代は手形というパスポートのようなものが必要で、それぞれの地域に入る前に関所という検問所があり、それはまるで入国管理の手続きのように書類と人物をチェックするシステムだ。女性はそのパスポートの発行自体が難しかったし、関所によっては通ることすら難儀だったらしい。

 

そこで、「抜け参り」を計画する。女手形などを準備せずに伊勢を目指す。3人はその日のうちに出立することを決め、おしゃれに旅をしたいお蝶の意見など聞き入れずに早速品川を目指す。川崎を通りどんどん西に歩く3人だが、道中様々なトラブルに巻き込まれる。江戸時代の女子旅には苦労も伴うが、そこは猪鹿蝶なので機転を利かせて切り開いていくところが楽しい。

 

一生に一度は伊勢参りをするのが夢という話をよく聞くが、伊勢につき3人もそれぞれのしこりを解決する道を見つけていることにほっとした。著者の作品、どれも読了後に押し寄せる満足感が高いので他の作品もどんどん読んでいきたい。

 

ところでKindle Unlimitedが何やら粋な企画を開始され、2か月の定期購読料金が99円という格安なプランんを出しておられた。Unlimited、今まで何度か利用していたのだが月990円(定期プランの料金)以上の読書がかなわない日が続くたびに解約しては入り、解約しては入りを繰り返していた。せっかくのタイミングなので今回また使ってみようかと思う。GWにはやはり楽しみはいっぱいだ。