Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#222 「ちょっとお邪魔しています」くらいの控え目な旅がしたいなあ

 『どこでもいいからどこかへ行きたい』Pha著

バスでふらっと旅に出て、いつものところでいつものごはん。

 年末あたりから年次で締めているマイルやらポイントやらの更新についてのお知らせが届き始めた。ホテルや航空会社の利用実績もこのコロナ禍では使いたくとも使えないし、上のクラスへのチャレンジはもってのほか。旅行好きな人たちは悶々としているに違いない。

 

思えば最後に海外に行ったのはいつだったかな。飛行機はたしか12月頭が最後のはず。仕事であっても思うように越境できないのだから旅行はもっと難しい。里帰りすら気を使うし、現にこのお正月は帰省しなかったという人も多いだろう。ああ、ぱーっと気分転換したい。

それでセールだったこともありこの本を買ってみた。Phaさんは独特なスタイルのゲストハウスなどを経営したりしておられるが、実はものすごくインドアな方のようだ。ゲストハウス経営とあったので、社交的でいろいろなイベントを立てたりする方かと想像していたのだけれど、読めば読むほど「インドア」なんだなーというのが伝わってきて、旅行に派手さがないことがかえって面白く感じられた。

 

まず、旅はバスがよいらしい。長く乗っていると疲れるからせいぜい5時間程度のところ。バスの中では本を読んだりゲームをしてることが多いらしく、家とは異なる環境での読書やゲームがまた乙らしい。

 

現地についてからの過ごし方も特に何かをするわけではない。いつものコンビニに行ったり、いつものチェーン店でランチしたり、マンガ喫茶で大作を読破したりしておられるのだけれど、それは全部家に居てもできること。何も遠くに出かけてまでやることじゃないのに何故?と行動派が疑問に思うような旅を粛々と続けておられる。

 

行動自体は旅も平常も同じかもしれないけれど、例えばコンビニまでの道筋や周りの建物なんかは住んでる街とは環境が異なるわけで、その見知らぬ土地に居ながらにして「いつもの」があるというのは何となく安心感を与えるとのことだった。

 

これ、ちょっとわかるな、と思う。国内よりも海外での話なのだが、あまりなじみのない国でぽっかり1日空いてしまった時、何か食べなくちゃと思って入るお店は対外日本でもお世話になっている「いつもの」店だったりする。スタバとかマックとかだと出てくる食べ物もなぜか安心して口に入れられる。いつも飲んでいるラテのはずなのに、ちょっぴり日本とは味が違うな。あ、牛乳が違うのかな?それとも水?このケーキはこっちのほうが美味しいぞ。などなど、あれこれ思いは巡るのだけれど、いつものロゴがそこにあるだけで緊張が解ける感がある。冒険している合間の一休みな感じ。

 

今まで読んできた本は著者が旅行先で思いっきり「私は今ここにいます!」をアピールしている本が多かった。様々な人に出会い、体験し、食し、笑う。たまにはものを盗まれたり、嫌な目にあったりするけれど、それが旅のスパイスになっていたりもした。みなさん行動派で朝から晩まで動いているし、バスに乗っているだけでも何かが起きている。新しい場所に行けばそこに自分の名前を残してくる行動に出る。知らない人とお茶飲んで、写真撮って、後で送ると名前を交換する、みたいな。動的で刺激的でその経験で人間はどんな風に変わるのかな?より成長した私になれたんだろうな、と思わせるような旅行記だ。

 

一方でPhaさんの旅行はものすごく静かで、その場所に来たという痕跡も残さないくらいにひっそりしている。「ちょっとお邪魔しています」とかなり控えめな訪問で、出来る限り名もない私のままで、現地の人にとっても名もないあなたでいさせるような旅。なじみの街と同じチェーンでもテーブルの並びが違ったり、客層が違ったり、そんなところに新鮮さを求めている。基本的に一人旅でガツガツしたところがない。こういう旅行記もまたいいな、と思った。何もしない旅で少し心を休めたくなる。

 

この本、サウナについて語っている部分が面白い。私はあまり利用したことがないのだけれど、施設ごとにいろいろな特徴があるらしく、テレビの有無や、付帯施設の快適さを追求して著者がわざわざ名古屋まで出かけたりとかなり本腰を入れてサウナを満喫しておられる。それまでサウナは苦手だったそうなのだが、ある日開眼してからというものサウナ巡りが日常となっていく。その開眼する過程までがかなり笑えた。

 

国内旅行もワクチンの接種が始まれば少しは解禁となるのだろうか。ゴールデンウィークにはまた旅行が楽しめる世の中になっているのだろうか。その前にオリンピックはどうなるのだろう。いつかはコロナも落ち着いて昔のような日々が戻ることと信じてはいるけれど、こうして思うように旅に出られない日が現実に起きたことから「行きたい」程度でなかなか出かけることのなかった地域にも足を運ぶべきだと思うようになった。

 

もともと出不精なところへのstay homeで家大好き度がますます高まっているけれど、そろそろ旅のことも思い出さなくちゃな。