Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#173 別れた人への想いをどうにもできないというのはこういうことなんだと思う

『こいわすれ』畠中恵 著

麻之助とお寿ずの縁とは・・・。 

こいわすれ (文春文庫) まんまことシリーズ 3

こいわすれ (文春文庫) まんまことシリーズ 3

  • 作者:畠中 恵
  • 発売日: 2014/04/10
  • メディア: 文庫
 

 

毎年毎年12月になった途端に急に忙しくなり、やっと一息気つく頃はすでにクリスマスが目前で愕然とする。本当は12月になった途端にクリスマスを満喫すべく日々映画や音楽で気持ちを高め、クリスマスイブにはターキーは好みではないのでチキンでも焼き、有名店のケーキでも食べたいというのが目標なのだが気がつくともうクリスマスまであと1週間。まずい。これはまずい。予定と全く違う12月を今年も過ごしてしまうことになる。ということで、音楽からまず聞き始めた。

 

最近音楽はほぼAmazon Musicを使っているのだが、クリスマスのプレイリストを聞いていたら、マイケル・ブーブレの「ジングル・ベル」が入っていてそれがとてもポップでよい感じだった。クリスマスに合った声の持ち主だと思う。メロウな甘さがぴったりだ。

クリスマス(デラックス・エディション)

クリスマス(デラックス・エディション)

 

 

完全に心はクリスマスなのに、読んでいる本はなぜか時代小説という不思議。しかもこの「まんまこと」シリーズの3巻目は堪えた。通勤電車で↑のクリスマスソングを聞きながら極めて明るい気持ちで読んでいたのに、後半は涙を堪えるので精一杯できっととてもとても歪んだ顔で読書していたに違いない。

 

時代小説に描かれる生死は、武士が主人公である場合でも、町人が主人公である場合でも、残された側の悲しみへフォーカスを当てる場合、湿った感じを残さない。医学の発達もない時代だから歯痛や盲腸や怪我がもとであっけなくこの世を去ってしまう。幼い子供は7歳まで生きるのが難しかったという文献も読んだことがあるし、麻疹や風疹などの流行病は人の命を奪う可能性の方が高かったのかもしれない。

 

そして自然災害も救助が難しかったであろう。火事が一度起きると街を焼き尽くしたであろうし、川の氾濫も多かったらしい。特に深川のような埋め立て地は水が上がってくれば一大事だっただろう。寒さや暑さも問題だ。防寒できるようなしっかりした家は少なかったに違いない。長屋なんかはきっとすきま風が吹き込んで、家の中がすっかり凍ってしまったはずだ。

 

だから、愛する人があっけなく、あっと言う間に遠くに行ってしまう。心の準備も出来ないうちに子供が、夫が、妻が、親が、想い人が居なくなってしまうのだ。今までは江戸の人々は死を迎える準備が出来ていたのだろうと思っていた。でも、考えてみればそんなはずはない。表に出さないだけのこと、一人で淋しさに耐え、いるべき人が居ないことに、もう二度と会えないことに向き合っていただけのことなのだ。

 

海外では悲しみを表現する文化がある。我が日本にはそれがない。だから耐える。時が癒やしてくれるまで、ただじっと待つしかない。3冊目の後半はその痛みが満ちていて、心をぎゅっと掴まれた。麻之助のお気楽な呑気さがただただ涙を誘う。今までの畠中ワールドとは違った心の機微に取り込まれ、現実世界から流されてしまったかのような感覚だった。読了後も繊細な感情が切り離されない。

 

12月のクリスマスの時期、きっと恋愛でつらい思いをしている人もおられるだろう。そんな人に、ぜひこの「まんまこと」を読んでみて欲しいと思った。愛とは何か、そこに少し近づけるような気がする一冊。今年は特に帰省も難しいだろうから、より愛する人への想いを育むためにも時代小説の力を借りたいところ。