『髪結い伊三次捕物余話 5』
ついに二人が親に!
このシリーズもやっと5冊目まで読み進んだ。この作品は1冊で1つ歳をとる。よって主人公はそろそろ三十路手前ということになり、ますます仕事にプライベートに忙しい時期だ。
さて、4巻目にて深川は辰巳芸者のお文と籍を入れた伊三次だが、いつまでも長屋暮らしというわけにはいかない。しかも住んでいた長屋でお文がトラブルを起こしてしまう。周りからは「芸者に廻り髪結いの才女など務まるものか」と、お内儀としてのお文の力量を疑うような心無い言葉も多かったことから、伊三次はついに長屋を出て一軒家へと引っ越すことにした。
一軒家であればいつか自分が店を構えることもできるであろうと広めの家を手に入れる。場所は今でいうところの日本橋で当時は佐内町と言ったらしい。お文はお座敷に出て芸者として稼ぎを得ている。もちろん伊三次は相変わらず同心、不破のもとで小者として動きながらも本業の廻り髪結い業で口に糊する日々。
5巻目はお文の健気さが引き立つ内容になっている。あれほどに望んだ子を宿したお文は、自分のことよりやはり伊三次を一番に考えており、ぎりぎりまでお座敷にあがるのだが、事を起こす時は必ずやその後相手がどういう思いをするのかに気を配っているところが美しい。
なんとなくこの小説を読んでいると共に成長していくような錯覚を覚える。ところでこの作品の黒く塗れというタイトルだが、巻末の著者のあとがきにおもしろい内容があった。Kindle版にあとがきが載せられる小説をあまり見ることがなかったので楽しく読んでいるが、なるほどこんな裏があったのかとちょっと笑ってしまった。