Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#159  時代小説の粋な表現にグッとくる

『髪結い伊三次捕余話 3』宇江佐真理 著

文吉に危険が迫る。 

 

また同じことを言うようだけれど、長く続くシリーズものの時代小説にはタイトルに巻数が記されないことが多い。オンタイムで新作が出るのを待っているので無い限り、読む順番がわからなくなるのでいちいち検索しなくてはならないのがちょっぴり面倒。

 

3作目となった髪結い伊三次、2作目で同心の不破との縁を切った伊三次だったが3作目にして不破のもとへ戻る出来事があった。やはり捕物関係に助力することからの和解だったのだけれど、大げさなシーンとしてではなくさっぱりとまとめられているところがまた粋だな、と思わせる。

 

もともと伊三次と不破との関係が切れたのは、芸者で身を立てている恋人の文吉がかつて面倒を見てもらった旦那の息子からの息が掛かったことにあった。事件も重なり伊三次自身も深手を追う。なんともはらはらするすれ違いが3巻目にしてあっという間に好転した。

 

文吉の住んでいた深川の家はかつての旦那である材木屋が文吉のために誂えたもので、名義も文吉のものとなっていた。手入れするほどのこともなく日々暮らしていたのだが、旦那の息子が文吉に色恋を語り始め、終いには家の修繕の普請を申し出た。着物も立派なものを与えるという。芸者という仕事柄、だれかに支えられることは常であったから、文吉はそれを受け入れるのだが伊三次には苦い薬となった。

 

2代目材木屋だがもともと体の弱かった正妻が幼い娘を残して他界する。これで文吉を後添いにする名目ができたというもの、息子は文吉に迫り続ける。そんな折に文吉の家が燃えた。火付けにあったのだ。

 

そこからの展開は早く、伊三次と文吉は新たな道を歩きはじめる。人生の大きなターニングポイントとも言える出来事を本当にさらりと何事もないかのように話は進んでいくのだが、それがなんとも風情がある。長く書かれればただベタベタとした恋愛小説になってしまうのだろう。そこは粋な江戸っ子なのでさっと日常と変わらないかのような表現でより一層想像を掻き立てる。

 

この作品、まだまだ続きがあるので読むのが楽しみでたまらない。