Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#148 礼節と相手を思いやる気持ちは世界共通だと思うのですよ…

 『雑貨・服 イギリス買い付け旅日記』井形慶子 著

2005年から2015年の間のイギリスでの買い付けの記録。

雑貨・服 イギリス買い付け旅日記: 英国製にこだわってStill Made in Britain (単行本)
 

 

梅田の阪神百貨店での英国展に出展すべく買い付けに行った時の記録。クラフトマンシップの効いた英国ならではの商品を探す旅。

 

この本、読み終わるまでかなりの時間がかかった。とにかく読み進められない。本当は途中で読むのをやめようかと思ったのだけれど、ひとまず目を通そうとぱらぱら速読のような感じで目を通したにも関わらずそれでも全く進まない。5ページ続けて読めればよかった方かもしれない。

 

日本大使館のデータによると、2017年に調査した在英日本人は6万人を超える。ヨーロッパの中では最も多い。今はBrexitの問題があるとは言え、ビジネスで英国に滞在する人はかなり多いと思う。周囲で英国出張の経験がある人を探すのは簡単だと思うし、アカデミックの面でも英国留学を目指す人は多い。

 

著者は英国に長期滞在した方ではない。英国の中で改めて日本を見直したというよりは、あくまでも日本が基盤で日本にない情報を広く浅く届けるスタンスである。この書籍によれば年におそらく3~5度くらい渡英されており、年の滞在日数も多くて50日程度ではないかと思われる。それを長い間続けておられるのだろうけれど、英国をよく知る人は滞在者数でもわかるように数万人レベルで存在するのだ。英国のライフスタイル、住環境など詳しい方もたくさんいるだろう。さらに毎年英国行きの出張があるという人は割と多い。かく言う私も毎年必ずヨーロッパ出張があるし著者ほどではなくとも定点観測を続けている。

 

アカデミックの世界にいる友人たちは学会だ講義だと毎年英国を訪問している。ここ最近はBrexitの話で持ち切りだが、英国に駐在している友人の近況など楽しい話も多い。身の回りにたまたま英国とつながりのある人が多く、私自身も英国に魅力を感じる一人だ。だからつい著者の書籍に手を出してしまうのだが、2000年を過ぎたあたりから違和感を感じるようになってきた。あまりマイナスなことを書き残したくはないのだけれど、今後のために記しておく。

 

この間買った本もそうだったけれど、著者は同僚(部下?)とともに英国出張に出て取材や買い付けを行っているようだ。同僚の方は部長さんらしい。読者は著者とこの部長さんがどのくらい親しいのか、どんな仕事をしている方なのか、どんなお人柄なのかがわからない。なので著者がこの部長さんをけなすような言葉を書店で販売しているような書籍にいちいち書き残す意図がよくわからない。それが数ページごとに出てくるので読む気が失せる。家族のように親しい仲でとっても愛嬌のある人だとしても、この方の知人やご家族はその行間の思いをすんなりくみ取れるのだろうか。日記と称しているけれど、出張記録の報告書のようなものだと考えた場合、同僚が道を間違えた、ナビを間違えて入れた、そのせいで遅刻した、など私なら絶対に書かない。自分のミスならば再発を防ぐために書き残すかもしれない。同僚や得意先をこんな風に公にする企業様とのお取引はご遠慮させて頂きたい。

 

同僚だけではない。訪問先でも全く同じで、相手にしてみたら年に数度来るバイヤーくらいの認識なのではないだろうか。初見の企業もあったかもしれない。でもなぜにこんなにも尊大なんだろう。しかもクリスマスイヴの日にお得意先をご訪問というのにも正直驚いた。たまにこういう経験をすることがある。彼の国の人が短期出張でやってくるという。彼らは旧正月・旧盆を過ごすので日本のカレンダーもそれと同様だと思っているのだろうか、あちらは大みそかは普通の日かもしれないけれど、3が日も出勤日かもしれないけれど、日本は違う。説明しても「ここしか日程が取れないのです」と。そして無理に時間を取ろうとしてくる。その時のことを思い出して嫌な気分になった。

 

バイヤーとしての経験が浅いことは著者も書籍内で触れているが、海外のビジネスに携わるビジネスパーソンであれば、ちょっと計画性がないのでは?と思うのではないだろうか。旅行記として読むならばよいけれど、「買い付け」日記なのでバイヤーとしてもノウハウなんかを期待してしまった私も悪いのだろう。これで三方良しのビジネスが可能なのだろうか。さらに中に掲載されている写真も気持ちを離れさせるのに一役買っていた。見た目が9割と言う本が人気になったが、ビジネスでも素敵な身なりの人が素敵な笑顔で商談にやってきたら、お話はプラスに進みやすいだろう。服を買いに行って、ショップの方がかっこよければ商品がもっと引き立って見えるだろう。著者のターゲットとする購買層がよくわからないので一概には言えないが、掲載されている写真からは所謂「シュッとした人」の反対側の方がターゲット?と思いたくなる。

 

昔、先輩からこんなことを言われた。「いつ欧米の取引先の担当になるかわからないから、最低限古典は読んでおきなさい。文化、歴史、宗教、社会の背景はちゃんと勉強しておくように。あちらは階級社会が残っているからマナーや呼称にも気を付けるように。」など、ことあるごとに勉強しろ、いざ本番となったときに付け焼刃では通用しないと貴重なアドバイスをもらった。海外赴任してからでは遅いのだ。それで著者の本を読むようになったのだが、先輩から「学べ」と言われた分野がすっぽりと抜け落ちていると感じるようになり、そのうち余りにも相手を軽視する表現が目につき始め読むたびに居心地が悪くなった。

 

以前に読んだ書籍のことを調べようと思い検索した。検索結果にたまたま動画があがっていたので軽い気持ちでそれを見た。そして驚愕した。詳しくは書かないが、反面教師として強く印象に残った。国が変わっても礼節は伝わるものである。残念でならない。

 

昔読んだセントギルダの本などは他のイギリス関連本にはない視点が多々あり大変ためになった記憶がある。だからこそ本当に残念でならないのだ。一度気になってしまうと読み進めてまた同じような表現に出会うたびにざらりとした気分にさせられる。セントギルダの頃は特定の第三者があまり登場しなかったから不遜と感じさせるような文章がなかったのかもしれない。読んでいてどうしても部長さんの身近におられる方のことや、日本語が読めない(そして書かれていることすら知らされていないであろう)英国のサプライヤーがこの本を読んだらどんな気持ちになるだろうと代わりに胸を痛めていた。これを書きながらもやっぱり指先に棘がささったままのような、嫌な痛みと違和感が残っている。とにかく残念。

 

おなかの中に黒い塊が残っているみたいな読書感。もうこれ以上読もうとはもう思えなくなった。今まで何冊かの本を読んできて、英国気分を高めさせてもらったこともあったが、エッセイ系はもうこれで卒業させて頂こうと思う。