Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#137 ドラマの声で再生される不思議

『涅槃の雪』 西條奈加 著

時の改革に翻弄する町の人々と町を守る奉行所の面々。

涅槃の雪 (光文社時代小説文庫)

涅槃の雪 (光文社時代小説文庫)

  • 作者:西條 奈加
  • 発売日: 2014/08/07
  • メディア: 文庫
 

この頃Kindleで小説を読むようにしているのだけれど、読みたい本はどんどんほしい物リストにストックし、イベントごとにまとめて購入することにしている。この本は夏頃に光文社のポイント50%還元キャンペーンの時に購入した一冊。今年はどういうわけか時代小説に目覚めてしまい、今まで読んだことのない作品を読んでいきたいという思いが強まったせいか、イベントの際にはできるだけ購入するようにしている。

 

そして、なんと今度は文藝春秋社が秋の読書キャンペーンをやっている。同様に50%ポイントを還元する内容で小説だけでも結構な数がある。

 

11月5日までとのことなので、これはシリーズ本などお試しのチャンス!とばかりにあれこれ物色していたら、あっという間に数時間が過ぎていた。

 

ひとまず心を落ち着けようとタイトルからして絶対に浮かれ感が少なさそうなこの本を読んだ。

 

主人公は代々北町奉行に属する町与力である高安門佑。与力とは奉行所のトップであるお奉行の下で働くお役人で、町の衆と接するよりはお奉行の手足となってサポートする側の役人であることからこの作品は政治色が強い。恥ずかしいことに不勉強のせいで読み始めてしばらくするまで実在したことに気が付かなかった人物がいる。

 

主人公の門佑は背が大きく顔が怖い。人付き合いも苦手なので愛想がない。当然奉行所内でもとっつきにくい特異な存在なのだが、そこへ新しい奉行の着任により表舞台に近いところで治世に携わることになる。その新しい奉行が遠山の金さんこと遠山景元。遠山は門佑を身近に置く。もともと顔の怖さで鷹というあだ名のついていた高安を鷹門と呼びかわいがった。遠山景元は北町奉行の後一度外に出、そしてまた南町奉行となるのだけれど、出てくるたびにドラマのイメージが蘇り、松平健さんの姿が小説とちょっと違うなぁなどと思いながらも、健さんの声でセリフが再生される。あの遠山の金さんのドラマ、今思えばかっこよかったなぁ。

 

高安家の周りの登場人物も面白く、門佑の姉のキャラクターが秀でて魅力的だった。悪く言えば身勝手でずる賢いのだが、世を読み、夫を引き立てていく力が並ならず、夫の出世は門佑の姉の力と言っても過言ではない。この姉が主人公の小説があったら絶対に面白いだろうなと思う。

 

江戸時代とは言っても、265年と徳川家の統治の御代は長かった。この小説は遠山の金さんの登場からも推測できるが、天保の時代が舞台となっている。西暦で言うと1830年代のお話。天保というのは歴史上なんともトラブルの多かった時代のようだ。贅沢三昧で財政悪化が進むところへ飢饉に襲われる。もちろん飢饉に苦しむのは下々で、このたるんだ世の中に喝を入れるべく時の老中、水野忠邦天保の改革に打って出る。この改革は華美な文化を一掃し、帰農を推奨するなどの他、江戸周辺の大名や旗本の土地を幕府のものとし、変わりに遠方にある幕府の土地を与える等の内容だったのだけれど、結局どれも反発が強く成功には至らず、最後には御役御免となる。

 

タイトルの涅槃の雪には悲しい裏がある。涅槃とは輪廻から開放されて入滅すること。ニルヴァーナのこと。裕福な旗本家に生まれた門佑には下々の暮らしがわからない。農民の娘の話を聞き、門佑の心から頑なさが和らぎ始める。

 

町人文化やお捕物のお話も面白いけれど、政治がテーマの時代小説もスケールの大きさのせいかかなり楽しく読めた。歴史に詳しい人であれば「こんなの読めるか!」と物語風に作り上げられた場面に反発するかもしれないが、今までの不勉強がプラスとなって純粋に物語に没頭することができた。むしろこの本がきっかけとなり、これから時代小説を読む時には必ず時代背景や年号を確認しようと思うに至った。

 

それにしてもKindleのキャンペーンはありがたい。午後ももう少し本探しをしなくては。