Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#118 日本の風習をぼんやり感じ取れる時代小説ってやっぱり楽しい

 『居酒屋お夏』岡本さとる

目黒は行人坂にある居酒屋のお夏は怖い婆ぁとして有名な女将。過去には善行を信条とする相模屋のお嬢であった。

 

光文社のセールの際に購入したこの本、結局セール後にもいくつか買い足し、最後まで読んでしまった。

 


お夏が切り盛りする居酒屋の面々が悪を成敗するのだが、そのきっかけは母親のお豊が殺されたことへの仇討で、件の敵を探し出すというのがストーリーの要。全11巻出ているが、10巻まではタイトルに数字で「〇巻」だったけれど、最後の一冊がトップに載せた作品で数字が外れて「春夏秋冬」とある。この後話が続くのかどうかはわからないけれど、ひとまずこれでこのシリーズは読み終えたということにしよう。

 

居酒屋とあるので何か料理のお話でもあるかという期待のもとに購入したけれど、料理についての話はあまり出てこない。居酒屋なので造酒の話でも出てきそうなものだけれど、それもない。悪を成敗する上での義理人情が主体なので、各巻に数本の読み切りで「人助け」な物語が込められているのだが、それと並行して仇討までの道のりが語られている。主要人物はお夏の父が切り盛りしていた相模屋に勤めていた面々、そして居酒屋のそばに住む目黒の人々というところだろうか。

 

近場に住むものとしては、見知った地名がいくつも出てくるのでそれが楽しかった。久しぶりにお不動様にご挨拶になんていう気持ちも起こってくる。

 

それにしても時代小説なんて10代、20代の頃には読もうとも思わなかった。それが抵抗感無く読めるようになったのは30代に入って、『しゃばけ(新潮文庫)【しゃばけシリーズ第1弾】』に出会ってのことである。時代小説=歴史と思っていたふしがあったが、教科書に出てくるような人物の名前が出てくることもない。むしろこの作品は妖(あやかし)の見える薬種問屋の若旦那が主人公で、設定そのものが限りなくファンタジーである。お化け幽霊が出てきたりと、ハリーポッターとなんら変わらないじゃないか!と思ってからこのシリーズだけはずっと文庫版を買い続けている。そして去年だったか念願のKindle版も登場した。紙の本はパラパラとめくり、ふと読み返したい所やチェックしたい所を探しやすいという利点があるが、保管に場所を取るという難点がある。一方電子書籍は場所は取らないけれど、目的の部分を探すのにキーワードが浮かばない時などはちょっと探しにくい。

 

まあ両者長短あるわけだけれど、この居酒屋お夏シリーズを読みながら「歴史小説Kindle版でいいかな」と思うようになった。何しろちょっとだけ安いし、読みたい本はたくさんあり、読み返す小説も限られている。今後小説は電子書籍で購入し、どうしてもこれは!というものを後から紙で買うことにしたいと思う。

 

居酒屋お夏シリーズを読んで、江戸の歴史や風習に対する興味が深まった。江戸が舞台の小説の多くは日本橋や本所、深川、浅草あたり。内藤新宿や品川がたまに出てくる他は見知った地名の出てくる割合は東側に偏っている。目黒が舞台のこの小説を読み、目黒の片田舎っぷりなどを面白く読んだ。こういうところから歴史への興味が深まるのかなと思う。コロナが少し落ち着いたら江戸東京博物館に行ってみたい。