Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#099 笑いたいと思って読み始めたのに、怖くて夜は無理だった

 『夜行』 森見 登美彦 著

京都の英会話学校での仲間に起きた物語。

夜行 (小学館文庫)

夜行 (小学館文庫)

 

 

9月に入り少し暑さが和らいできた気がする。誰に言われたのかまでは覚えていないのだが、昔から「一雨毎に」という季節のキーワードが頭にある。一雨毎に夏が来て、一雨毎に夏が去り、秋が近づく。それにしても今年の梅雨は長かった。長い長い梅雨が明け、暑い暑い夏が来て、そして秋が近づいている。

 

ラノベの後にしっかりとした本を読みたい。できればちょっぴりクスッと笑えるような、没頭できるような本が良いとこの本を選んだ。小説のほとんどはKindleで読んでいるので表紙のデザインはさほど気にならないのだが、改めて見てみると夜空を背景に女の子が立っているというちょっぴりロマンチックなイメージだ。冴えない大学生の僕とか出てきて欲しいなという期待が高まる。

 

朝から読み始めたのだが、どんどんと不思議感が増していく。初めて読んだ森見さんの作品は 『夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)』で、万城目学さんの『鴨川ホルモー 「鴨川ホルモー」シリーズ (角川文庫)』とともに購入した記憶がある。ともに京都を舞台とし、京大卒という素晴らしい学歴をお持ちという共通点がある。そしてこの二冊とも内容がコミカルで何とも言えないパワーがあった。そんな楽しい気分を久々にとしばらくぶりに森見さんの作品をチェックして、比較的新しいものを購入した。そういえば以前の作品は文庫で所蔵していたのだが、引っ越しを重ねるうちに手元から無くなってしまったのでKindle版を購入して再読したい。

 

とにかく、明るい気分になりたかったのだが、昼頃にはうっすら背筋が寒くなる。曇りの東京、窓を開けているだけでそれなりに涼しい一日だったのだが、まるで暗闇に誰かが潜んでいるかのようなぼんやりとした恐ろしさが押し寄せてくる。あれ?森見さん?と心の中で著者に助けを求めたくなる。森見さんイコール楽しく知的なユーモアの作品という思い込みがあっただけに、「夜行」が怖くてたまらない。大筋は英会話学校の友人たちで鞍馬の火祭りを見に行くのだが、同級生の長谷川さんがいなくなった。どんなに探しても見つからない。いなくなった事実が恐ろしいのではない。恐ろしいのは大人になった彼らが久しぶりに鞍馬の火祭りの日にまた集まろうということになり、これまでどう過ごしていたのかという話を鞍馬の宿で語るところにある。

 

彼らの話はどれも旅の経験談なのだが、それぞれ何ともひんやりとした感想を残す。一人の話が終わるとひんやり感は倍となる。みな、一人の画家が描いた絵とつながっており、その画家の絵が怖い。京都で電気ブラン片手に天狗と戦うような明るいお話ではなく、むしろちょっぴりホラー感があって今まで読んできた明るい森見さんは一体どちらへ?実直そうなイメージの中にこんな闇をお持ちだったとはと驚きながらも読めば読むほど怖い。これ、どうなるの?どんな終わり方なの?と温かいお茶がなければ肝がすっかり凍えてしまいそうな、体の芯を冷やしていくような流れだった。

 

読んでいるうちに空がみるみる暗くなり、雷が落ちたかと思ったら豪雨となった。一旦読書を辞め、夜にまた読み始める。「夜行」は夜のお話だ。夜に読書灯を頼りに読む本ではない!と、朝明るくなってからまた読み始める。

 

最後まで読み終え、この作品は読み手によりオチの感じ方が異なるだろうなと思った。終わり方が少し唐突というか、急いで結んでしまったような感もあるのだが、それもまた意図があったように思う。読了後は一つのキーワードが浮かんできたが、次回読むときにはまた別のところで冷えてしまいそう。少し難しい作品だと思う。