Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#086 上品な餡、しかも草餅だなんて完璧すぎるに決まっている!!

 『深川二幸堂 菓子こよみ (一)』 知野みさき 著

幸太郎と考次郎兄弟の営む和菓子屋は、餡のおいしいことで有名。

深川二幸堂 菓子こよみ (だいわ文庫 I361-1)

深川二幸堂 菓子こよみ (だいわ文庫 I361-1)

 

 

和菓子が食べたい。今一番食べたいのは草餅だ。私はよもぎ餅と言うことのほうが多いような気がするのだが、とりあえず読んだ本に従って「草餅」としよう。滋養に満ちた、なんとも浄化されるような蓬の味が美味すぎて、本来春のお菓子だとは思うのだが(蓬のシーズンが春だから)一年中いつでも食べたい大好物である。

 

この本はずっとずっと気になっていた。なぜならAmazonに記されている著者の経歴に

 

1972年生まれ。ミネソタ大学卒業。カナダ・バンクーバーにて銀行員を務める。2012年『鈴の神さま』でデビュー。また同年、『妖国の剣士』で第四回角川春樹小説賞を受賞

 

とあったからだ。しかも「和菓子」だという。カナダ在住の銀行員の方が時代小説を書くというなんともユニークな背景はそう多くはない。海外で時代小説を書くとなると調べものなど大変だろうなあと思う。さらにはちょっと手に取って確認したいことがある場合、国内にいればすぐに手が届くものでも在外となると途端にハードルが高くなる。今やネットで注文すれば海外にだって割高になるかもしれないけど届かないものなんてないのでは?と思う方もいらっしゃるだろうが、薬品、生もの、規制のかかっている食品などなど、そう簡単にはいかないのが海外生活である。

 

この小説は江戸は深川で和菓子屋を営む兄弟が主人公で、弟の考次郎が和菓子職人、兄の光太郎は店を切り盛りしている。光太郎は役者にもなれそうなほどの男前で、口も達者。もとは父の稼業を次いで根付職人になるべく暮らしていたが、ある日突然和菓子屋になった。弟の考次郎は草笛屋という和菓子屋に奉公に出て長く下働きをしてきた。もともとの筋がよかったのか、考次郎はどんどんと力をつけ、草笛屋の先代からたいそう見込まれていたのだが、代替わりで息子がついでからは餡を作る仕事をたった一人でするようにと板場から追いやられ、いやがらせを受けていた。そこへ光太郎が「店をやる」と考次郎を迎えに行き、暇乞いさせてしまうところから物語は始まる。

 

考次郎には大火で負ったやけどのあとがある。それが物語の軸となっており、兄弟の心にひっそりと影を落としているのがせつない。

 

それにしても読めば読むほど和菓子が食べたくなってしまう。そもそも本当に美味しい餡を食べたことのない人には和菓子なんて古臭いものなのかもしれない。幸い身近で絶品の和菓子が普通に売られていたので、私は洋菓子も好きではあるけれど、これぞという時は和菓子を食べたい派である。季節感があり、見た目にも楽しい和菓子はもっと世界に出てもよいのでは?とすら思っている。

 

とにかく出てくるもの一つ一つが目に浮かび、どうしても食べたくなってしまうのが考次郎のお菓子。今回出て来た草餅のお話にいてもたってもいられなくなり、和菓子魂に火がついている。帰り、日本橋に寄ろうかな。

 

追伸 著者についてはこちらの「法人きさらづ」に詳しいことが掲載されている。

http://www.kisarazu-houjinkai.or.jp/Data/kaiho281.pdf