Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#081 この夏は時代物小説を読んでみることにした

 『だいこん 一膳飯屋』 山本一力 著

江戸の下町で美味しいごはんを出すことで有名な「だいこん」の女主人の話。

 

世の中3連休でなんとなくそわそわしているようだ。山の日の連休とお盆をあわせて夏休みを取るのがスタンダードな夏の過ごし方かと思うのだが、今年はコロナ禍もあり、なかなか遠出が儘ならない。帰省すら躊躇する人も多いであろう昨今、例年よりは穏やかに過ごす夏となりそうだ。花火も無いし、今年は今はもう会えない人たちを心の中で偲びたい。

 

そして8月に入り梅雨明けした途端、いきなり厳しい暑さがやってきた。こうも暑いと何をしていいのかわからない。家でゆっくりNetflixでドラマや映画を観るのもよいけれど、この夏は時代物小説でも読みながらまったりと過ごそうと思う。時代物小説を読むようになったのは、以前に書いたかもしれないが、畠中めぐみさんの『しゃばけ(新潮文庫)シリーズを読んでからだ。これは妖の出てくるファンタジーで江戸時代の日本橋が舞台となっている。歴史の授業で習った時はそれほどでもなかったくせに、小説の舞台として知った地名が出て来て登場人物がイキイキとその地で生きているとなると俄然興味が湧いてくるのはなぜだろう。

 

今回の「だいこん」は浅草の並木町にある一膳飯屋である。調べてみると浅草並木町は今の住所では台東区雷門2丁目あたりとのことだ。主人公のつばきは3人姉妹の長女で、父は大工という江戸で言えば普通の家柄なのだろう。ただ、大工は腕が良ければ結構稼げたはずなのだが、つばきの父親は博打に手を出し借金を抱えてしまう。よって暮らしは非常に慎ましい。ある日目黒で起きた火の手が浅草まで燃え広がるほどの大火が起きるのだが、つばき達の暮らす並木町は燃え尽きることなく多くが一命をとりとめた。街を復興させるため幼いつばきも炊き出しを手伝いにいくのだが、そこで教わった米炊きがつばきの一生を変える。まだ10にもなっていないつばきの炊く飯がめっぽうおいしかったことから、番屋で飯炊きとして雇われることになり、そこで稼いだお金をもとに開いた店が「だいこん」である。

 

つばきはとても直感力に長けているだけでなく、幼い頃からの貧困や長女という役割に加え「家を守る」という思いが強く、幼少の頃からなんでも一人で考え、決断し、押し進める力がある。高田郁さんの小説に出てくる賢く美しく強運な女性にも似た魅力にあふれている。実直で毅然とした姿を想像すると、凛とした女性像が思い浮かぶ。

 

食べ物についての描写もいくつかあるが、メインはおいしく炊けたごはんなので読んでいて「ああ、これ作りたい」と思えるものは少なかった。ただ美味しく炊けたごはんがそれほどまでに人を魅了するとは、一体どんなにすごいごはんなんだろうと思う。質の悪い米もつばきが炊けば絶賛されるほどのうまさだという。我が家には炊飯器はなく鍋で炊いている。鍋のほうが早く炊けるし、そもそも炊飯器を置く場所がないので鍋炊きを貫いているが、確かに鍋で炊くごはんはおいしい。水加減、火力で如何様にも炊ける楽しみもあるが、それはガスを使えるからこその余裕。江戸時代は火加減を調整するだけでも一苦労だったのかもしれない。

 

それにしても本所あたりのお話はおもしろい。浅草、蔵前あたりまでは行くことがあるのだが、なかなか吾妻橋を渡ることがないので今度ゆっくり行ってみようかと思う。