Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#070 道具に頼るのではなく、自分の味覚と腕を頼りに料理を作ろう

『ちょっとフレンチなおうち仕事』タサン志麻

普段の志麻さん、おうちでの志麻さん、お母さんな志麻さんを垣間見れる一冊。 

ちょっとフレンチなおうち仕事 (正しく暮らすシリーズ)

ちょっとフレンチなおうち仕事 (正しく暮らすシリーズ)

  • 作者:タサン 志麻
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

本来ならば今頃はオリンピックで盛り上がっていたはずの東京。コロナ禍でひとまず中止と相成った2020東京オリンピックの行方が気になるところではあるが、まずは人々の安全が大切。そして雨で始まった4連休、本当は行きたいところがいくつかあったのだが、Stay Homeで大人しくしていることにした。

 

Stay Homeという言葉がコロナ禍をきっかけによく語られるようになった。意味は単に「おうちにいよう」というだけのことだけれど、イメージとしてはコロナ禍とセットになってちょっぴり制限のある在宅感となってしまった。もともとインドア派の私は家にいることになんの苦も感じないし、むしろ出かけるほうが一大事なので雨の日に家で好きなコーヒーを淹れて読書することが至極幸せだったりする。

 

そんな家での時間。暮らしの中心に料理があるとなんとなく張り合いが出る。志麻さんを初めて見たのは「プロフェッショナル 仕事の流儀」だった。たまたま出張で外に出ていた時だったと思う。普段はテレビを見ることがないのでこの番組を見れたのはラッキーだった。恐らく多くの方が魅了されたのではないだろうか。今や志麻さんのレシピ本は料理関連ではトップの売上ではないかと思う。

 

海外で暮らしていた頃、「暮らし」というのは国々で随分違うものだと知った。日本人は割と自らの手で暮らしを作り上げていく部類なんだろうと思う。もちろん自らの手による場合もあれば、プロの手仕事を頼りにすることもある。志麻さんのご主人はフランス人でDIYなどもお手の物なんだそうだ。確かにヨーロッパではDIYを好む国が多いような気がするが、それは住環境の違いによるものではないだろうかと常々考えていた。そして代々受け継ぐ文化があるということが前提でもある。木造づくりの日本の住環境では持ってせいぜい数十年だが、ヨーロッパでは数百年は経とういう建物が現役で活躍しているし、頻繁な手入れも必要だろう。費用の問題だったり、作業をしてくれるプロの力量だったりといろいろな事情もあるだろうけれど、日本には餅は餅屋という言葉がある。プロに安心して任せられるというか、とても素人には到達できない何か神聖な領域にあるものという感がないだろうか。もちろん手先が器用でなんでも作ってしまう方も沢山いるのだが、プロの手仕事は芸術の域に達しているから、私などはすぐにプロの手に委ね、かわりにそれを大切に愛でつつ長く使うことに喜びを感じる。餅は餅屋。日本の技術が通用したのはすでに過去のことだという21世紀生まれの方々の意見が一般的になりつつあるが、私はそうは思わない。手仕事は受け継ぐということが可能であり、逆にものを大切に受け継ぐ土壌を残していけていないことに懸念する。

 

そんなことを思いつつこの本を読んだ。志麻さんは今や時の人で日本人の手仕事魂に火をつけた。お料理の楽しさ、食べる美味しさ、臨機応変に縦横無尽にまるで我が家の台所でお料理するかのようにあっという間に何品目ものお料理を作る。見ていて気持ちがよいのだ。

 

志麻さんはフレンチのプロでありながら、和食、中華、諸外国のお料理などなんでも作る。しかもその場にあるものを見て、パッとメニューを決めていく。その後いくつかの動画を見たが、志麻さんは人まねや流行に乗っかるようなお料理は作らない。お料理をしているだけの姿が流れているだけだというのに、「志麻さん」という個性が強く現れている。自分を持った人というのは凛とした気のようなものをまとっておられて、志麻さんもそういう方なんだろうと思った。黒子のように裏方を支える控えめな魅力があった。

 

志麻さんは今までの料理研究家というか、テレビなどで活躍する料理をお仕事とする人とは一線を画する。この本で紹介されている志麻さんの台所道具は私達が使っているような、近くのお店ですぐに購入できるような普通のものだ。例えば鍋。ティファールのもので、取っ手を取り外せるタイプのものを使っておられ、メインで使っているのは小鍋、中くらいの鍋、フライパン、深さのあるフライパンのみ。

 

 

 

料理が好きな人には道具や食器を集める人が多い。私も鍋だけでいくつもあるのだが、道具ばかり沢山あってもプロのような料理の腕はない。むしろ腕がないから道具に頼るのかもしれない。少しでも近づきたいし、おいしいお料理ができるなら、道具のちからを今は借りよう。もう少し書籍内の道具をメモしておく。

 

ざるの写真がとても使いやすそうだったので調べてみた。リングの形をみるとこちらのものではないかと思う。

 

 

あと貝印のスライサー。貝印社の製品は安心して使えるものが多く、私もセットで購入して志麻さんと同じ用にキャロットラペを頻繁に作っている。

 

  

食器もIKEAで本当にシンプル。調理器具は黒でまとめて統一感を出しておられるとのこと。でも本当に特別なものがないのだ。他の料理研究家さんが紹介する道具は特別感があり、大量生産ラインのものは数少ない。とてもとても入手困難なものも多く、それゆえ憧れの料理研究家さんと同じ道具を持つだけで料理の腕が上がったような気になる。志麻さんの唯一のこだわりはきっと包丁だと思うのだが、MISONOのペティナイフをお使いらしい。鍋だの、菜箸だの、容器だの、こだわろうと思えばいくらでも深く掘り下げられる世界なのに包丁とは。

 

シンプルで頼るは自分の舌と腕。とにかくずっと見ていたくなる志麻さんの台所の仕事には一本気なところがあって、まるで武士のようだと思った。こんなにも注目を集めているのにいつまでも謙虚に粛々と自分の腕を頼りに料理を作る様は本当にかっこよい。

 

フランス式の子育ての話も面白かった。特に食育に関するタサンご夫妻の向き合い方には学ぶべきところが多い。