Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#068 漠然とした憧れが確実に「目指すところ」となった料理人の本

『毎日すること。ときどきすること。』有元葉子 著

料理のレシピはない。人生観についての本。

 

毎日すること。ときどきすること。

毎日すること。ときどきすること。

 

 

最近はKindleが便利になったので欲しい本があれば「Kindleほしい物リスト」にどんどんとストックしている。書籍もたまにセールで安くなることがあるので週末など定期的にリスト内をチェックしているのだが、有元さんの本のいくつかが驚くほどお買い得な金額で提供されていたので即購入。

 

この本は『使いきる。 有元葉子の整理術 衣・食・住・からだ・頭』の続編のような一冊で、キッチンから一歩外に出たもの。「暮らし」よりは「生き方」とどう向き合うかが書かれている。

 


読了後、なぜか小林聡美さんが主演している『パンとスープとネコ日和』を思い出した。Amazon Primeなどでも見ることができるので、群ようこ+小林聡美+もたいまさこの『かもめ食堂』ファンには楽しく見れる作品だと思う。

 

このドラマの中で、出版社に勤める主人公のあきこ(小林聡美)が作家(岸恵子)のもとへ赴き、新しくこんな本を書いて欲しい、と語る部分がある。価値観だったり、暮らし方だったり、等身大の先生を知りたい、と。

 

話を『毎日すること。ときどきすること。』に戻そう。この本には有元さんの周りの人の姿が垣間見えるような気がした。今まで数冊読んできて感じたことは、「こんなお姑さんだったら大変だろうな」で、特に台所仕事に自信を持つお姑さんは嫁の立場としてはハードルが高い。友達としてはどうだろう?上司や同僚だったら?かなり近寄りがたくて親しくなるのに数年要しそうな雰囲気だ。だが、本を読むしか著者に接することができない読者には、料理というキーワードを通しての「仕事」の面しか伝わらない。「仕事」なのだから厳しくて当然。しかもプロとしての意識がある人たちは、常に全力投球で甘えの欠片すら見せはしない。書籍の中の有元さんは厳しい人で然るべきだったとこの本を読んで益々憧れが強まった。

 

有元さんと直に接することのできる編集担当者はこう考えたに違いない。有元さんの人生観をお伝えしたい、と。それはまるであきこと先生の関係を想像させるような、真摯なリスペクトが漲った関係なんだと思う。聞いたお話、一緒に見たもの、読者にも伝えたいと思われたに違いない。何よりも先生がどんなに素敵な方なのかを伝えなくてはという使命感が表れていた。

 

ということで、この本はレシピ本ではない。キッチンツールのお話がいくつか出てくるが、それは有元さんが開発に関わったもののお話。しかも作り放しではなく、愛用しておられるところにまた有元さんを敬愛する思いがつのる。メーカーさんも絶対に嬉しいに違いない。長く愛用された自社製品を見ることほど嬉しいことはないのだから。

 

ここ まで 仕事 を 続け て こ られ た のは、 何事 も 自分 で 決め て、 決め た こと に 責任 を とっ て き た から だ と 思い ます。 言葉 は 似 て いる けれど、「 責任 を 持つ」 と「 責任 を とる」 は 少し 違う 気 が する ん です。「 責任 を 持つ」 は 行動 です。「 これ を やっ て ください」 と 依頼 さ れ た 事柄 に対して、 全力 で 行動 する のが「 責任 を 持つ」 こと。

「責任 を とる」 は 態度 や 心構え です。 責任 を 持っ て 行動 する のは もちろん、 よく ても 悪く ても 最終 的 な 結果 に「 責任 を とる」 ─ ─。 私 は いつも、 どんな こと も、 そういう 気持ち で やってき まし た。

 

言い訳をしない人なのだ。言い訳は責任転嫁なのだと断言しておられる。

 

言い わけ を し て、 その 場 では 責任 から 逃れ た つもり に なっ て い ても、 自分 が し た こと の 結果 は 全部、 いつか 自分 に 返っ て くる ─ ─。

この こと を 私 は 痛切 に 感じ ます。 どうやら 自然 の 流れ として、 宇宙 の 法則 として、 そういう ふう に でき て いる みたい です よ。

 

仕事だけではなく、人生も、買い物も、旅行も、自分で決めて、決めたことに責任をとって生きる。それが最善の手段であると有元さんは言う。このあたりのところを読んでいて、なんと凛とした方なのだろうと思った。こうありたい。

 

恩師は「芯を持て」と常に私を鼓舞してくれたのだが、情けないことにいまだふらふらと揺れたままである。「芯を持つ」というのは私の中では人生のキーワードなのだが、自己啓発本などにあるTipは瞬間湯沸かし器的なところがあって、体や心に馴染む前にぱっと思いが飛んでしまう。シャボン玉が割れるように急に「やる気」が割れるのではなく、わーっと沸騰するのだが火が消えれば当たり前のように冷めていく。

 

人 が どう 思う かを「 やる」「 やら ない」 の 判断 材料 に し ない。 自分 が 本当に やり たい なら やる。 やる なら ベスト を 尽くす。 結果 は 考え ない。 これ が 私 の ポリシー です。

(中略)

私 の 経験 から、 よく 若い 方々 に 話す のは「 いつ でも 全力 を 出し きっ た ほう が いい。 そう し ない と ダメ みたい よ」 という こと。 呼吸 と 同じ で、 全部 出し きら ない と、 新しい 空気 は 入っ て こ ない ん です。  

出し 惜しみ を し たり、 全力 を 出す のは 疲れる から「 この へん で やめ て おこ う」 と 力 を 出し きら ない のは、 浅い 呼吸 を し て いる のと 同じ。 自分 の 中 に 燃焼 さ れ ない カス みたい な もの が いっぱい たまっ て、 新鮮 な もの を 受け入れ られ ない 心身 に なる。

 

「3人の娘を育て上げたシングルマザー」と聞くと、大変そうとか、辛そうとか、不幸要素を想像させて、それこそ上から目線で判断する人も多かったはず。シングルマザーとは昨今のフレーズだが、一昔前は「母子家庭」と呼んでいた。重い。急激に距離感が生まれる。ここに書かずともであるが、有元さんはそんな環境をマイナスにはしていない。プロは仕事にプライベートを持ち込まないし、要所要所に出てくる文章からぶれない価値観があるからこそであるとわかるのだ。

 

片付けについて。無駄を排除することでより効率的に環境を整えられる。何事も論理だった理由がある。面白かったのはヨガと片付けが同じと評している部分で、ヨガはコリを「呼吸でほぐす」のだそうだ。詰まっている部分に深い呼吸を送るようにしてほぐす。片付けは詰まっている何かを片付けていくことで、「片付けは深呼吸なんだ」という有元さんのコメントが自分にもすっと納得できた。

 

それから料理人の本の中に語学に関するコメントがあり真を突いていた。語学は言語を学ぶことではなく、何かをする手段として言葉を覚えてるほうが上達が早いという。その国に知りたいことがなければ、聞きたいことも喋りたいこともないわけで、まずは興味や関心ありき、とのこと。これは完全に同意。

 

備忘録として、いくつか有元さん開発のグッズを上げておく。まだLa Baseの商品を使ったことがないのだが、この本で開発の背景を知り、ボウルを使ってみたくなった。給付金もあったことだし、少しキッチンツールを購入しようかと思ったけれど、断捨離はどうなった!?という心の声としばらく葛藤しなくてはならないようだ。