Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#067 より和菓子を身近に感じられる一冊

 『亥子ころころ』西條奈加 著

「まるまるの毬」の続編。江戸に暮らす和菓子職人一家のお話。

亥子ころころ

亥子ころころ

 

 

1冊目があまりにも面白く、続編を購入。早く次の作品も出ないものかとそわそわしてしまう。

 


いつの頃からか時代物小説が好きになった。きっかけは恐らく畠中恵さんの『しゃばけ【しゃばけシリーズ第1弾】』シリーズを読んだからだと思うのだが、これも本当に偶然の出来事だった。本屋で手にしてすっかり気に入り、続編が出るたびに読み続けている。まだ海外に暮らしていた頃、短期ではあったが年末に一度帰国することが多かった。しゃばけシリーズの文庫版は12月に発売されていたので、いつしか帰省よりは本を確実に購入できるタイミングを優先するようになった。

 

時代小説を読み始めて気が付いたことは、これも一種のファンタジーであるということである。歴史として江戸という時代があり、侍が居て、殿様という人たちが国のトップに立っており、その間高貴な身分の方々は京都でひっそりとお暮しになっていたということは知っている。教科書にも出ているし、お寺や神社にお参りすれば実際に彼らが存在していたということを実感できる。でも、映像があるわけでもないし、せいぜい絵が残されているくらいだから過去は残された資料から推測するしかないわけだ。たまに江戸の街並みを再現したという映像に出くわすが、これもやっぱり推測の域を超えることはなく、むしろ「本物」であったかのように見たものの脳裏に過去を置いていく。実際に見ることはできない過去のイメージは時代劇やドラマや学術的な背景を持つ調査などから影響を受けて、すっかり「こんな感じだろう」という概念ができてしまった。

 

でも、やっぱり実際に触れることのできない世界はファンタジーの要素を乗せやすいので、時代小説の人物などは生き生きとした魅力に溢れているものが多い。この小説の治兵衛が作るお菓子の描写も今では伝統銘菓となるものも多いので、姿かたちを容易に想像できるにも関わらず、実際よりほんのりおいしそうに映る。ああ、こういう作品こそ映像化して欲しい。

 

タイトルにもなっている「亥の子餅」だが、うっすら黄な粉を着飾ったシンプルなもの。この写真は虎屋さんのものをお借りしているが、残念ながら今は販売してはいない。茶道の炉開きにも使われるお菓子とのこと。季節感を漂わせる一品であることは小説の中にもあるのだが、江戸の人々が心待ちにしているというところも平和なお江戸を象徴しているように思われた。

 

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和菓子をテーマにする小説、他にももっと読んでみたい。ちょうど1冊目を読んだ日、豆大福を頂いた。外勤から戻った方がお土産にと買って来て下さったものだが、「ああ、東京の大福だ」とほうじ茶とともにご相伴させて頂いた。この本にもあるのだが、東京のお菓子は求肥を多く使うように思う。大福の皮にも求肥を使うところが多く、日持ちがする。逆に京都の大福は日持ちもせず、糯米で作った餅だから出町ふたばの豆大福はすぐにても食べるのがお約束。お米の産地の大福もたいてい餅が皮になっている。小説から江戸の和菓子のルールに気づけたことも良い勉強になった。