Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#028 ポスト・コロナの日本観光

 超富裕層をターゲットとする旅のプロデュースとは?彼らが旅に求める質とはなにかを追求する。

グローバルエリートが目指すハイエンドトラベル 発想と創造を生む新しい旅の形
 

思えば今年はまだ1度しか海外出張に出ていない。1月の半ば、東南アジアに1週間の出張に出た。今思い返せばこの出張の準備をしていた12月の末、すでに私は海外のニュースや社内から聞いた情報で中国でなにやら恐ろしい伝染病が発生していると知っていた。まだ医療研究機関からも治療方法の研究が進んでいないし、これから中国は大変なことになりそうだとのことだった。それで私は成田空港で同行する人数分のマスクと除菌関連のグッズを購入し、現地に到着し次第すぐに配布した。成田空港には出発ゲート近くにマツキヨなどのドラッグストアの他、お土産品を取り扱う免税店が多くある。中国から来た人たちもまだこのときはマスクや除菌グッズよりもキティーちゃんと化粧品とお酒をカバンに山盛り詰め込んでいた。

 

帰国した1月末、都内はまだまだ静かだった。それが2月に入り日本への入国規制が始まった途端、東京駅あたりの移動人口がぐっと減った。東京駅前の広場で写真を取る団体の姿もなくなり、ビジネスパーソンの姿も見られなくなった。そして緊急事態宣言により私もリモートワークが始まったわけだが、今もリモートが続いている人が多いのできっと一頃よりは人出が増えてはいるものの、いつもの姿からは程遠いことだろう。

 

コロナ禍は日本の観光ビジネスに今後どのような影響を与えるのだろうか。これはJNTO(日本政府観光局)のホームページで発表されている2019年訪日観光客の国別人数のグラフである。もっと詳しい情報をご覧になりたいかたはこちらをどうぞ→

 

想像通りにアジア勢が強い。

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ビジネスとして観光を捉える場合、たくさんの人が来てくれたというだけでは規模を図ることができない。日本でどのくらいのお金を消費してくれたのかが重要になる。ということで、続けてJNTOの資料を見ていくと「訪日外国人旅行者一人あたりの旅行支出額の推移」というデーターがあった。今閲覧できるのは2011〜2018年のデータだ。その資料をもとに2018年の数字を見る。

中国 224,870円

韓国 78,084円

台湾 127,579円

香港 154,581円

米国 191,539円

英国 220,929円

フランス 215,786円

イタリア 223,555円

平均 153,029円

というデータが出てきた。

 

中国の爆買いのイメージに引っ張られて中国人観光客を是が非でも誘致を!のような活動はそろそろ限界が来ているような気がする。確かにアコモデーションの上では団体で来てくれるわけだからお部屋が埋まって稼働率があがるかもしれない。でももっと大枠で観光を捉えたとき、外食産業であったり、ショッピングであったり、交通であったりを深く追求する場合には上の数値が役立つ。平均を大きく超えて、中国と変わらない金額となっているのがヨーロッパやアメリカである。むしろ韓国は平均値を引き下げる要因の一つだ。そもそもNO Japan政策を推進している韓国の人がなぜ日本に来たがるのかも本当に謎。

 

JNTOのデータは非常におもしろいのでぜひ一度見ていただきたいのだが、国別でどの分野に比重をおいているのかもよくわかる。例えば中国は買い物代が約50%なのに対し、イタリアは約14%。一方アメリカはアコモデーションで43%という数字だ。

 

日本は箱の問題もあるかもしれないが、国際会議もそう多くはない。それでもこれだけ多くの方がわざわざ日本に来てくれるというのは、それだけ日本に何かがあるから来てくれるのであって、ホストである私達はもっと楽しんで頂けるべく準備を進めるべきであろう。無差別に「いらっしゃい」と呼び込むのではなく、もっと彼らが感じる「何か」を磨き、私達もお客様を選ぶべき時が来てるんじゃないか、と感じるようになった。

世界のラグジュアリートラベル市場で、アメリカ人旅行者は最も経済効果があると言われています。

たしかにJNTOのデータを見ても、アメリカは中国の1/5の訪日数だけれど、金額としては中国とほぼ変わらない。そしてアメリカといえば大型ホテルチェーンの存在や、エンターテイメント施設も優れた物が多い。

2016年にアメリカ人旅行者の世帯収入上位5%に当たる1667人を対象に調査を行いました。それによると、世帯収入は2千万円以上、または純資産が2億2千万円以上で、さらにトップ1%に当たる724人は、世帯収入がその倍以上、または純資産が8億8千万円以上にのぼることがわかりました。また回数で見ると、一般的なトラベラー世帯が年に平均4・8回旅をするのに対し、上位5%は14・3回でビジネスとレジャーの比率は半々。つまりラグジュアリートラベラー1世帯が、一般トラベラー3世帯分の旅をしていることになります。

では、富裕層は旅に何を求めているのか。それは「経験」なんだそうだ。素敵なホテルに泊まってスパとか、プロも通うゴルフ場でのプレイとか、超有名シェフのディナーではなく、何らかの学びや気付きを与えてくれるような貴重な経験を求めるとのこと。確かにどこどこのホテルに止まったとなると宿泊料金なんて簡単に調べられるのでお金持ち自慢になってしまうので、逆にそんな話はちょっと…という方も多いだろう。

 

例としていくつかのリゾートの話が挙げられているのだが、大抵交通の便が悪い場所にある。主要都市で飛行機に乗り換え、空港についてからも車に揺られて数時間と離れた距離にある。ただ一旦施設に入ってしまえば完璧なホスピタリティで快適な時間を過ごすことができる。そしてそこでの宿泊により発生した費用が、実は現地の福祉を支えていたりと宿泊自体が貢献になっていることもある。またマインドフルネスのように自分の心と接するようなワークなども人気があるらしい。

 

日本の場合で言えば、「何か」は禅や日本の伝統文化のような気がする。私が最初に思いついたのは京都の桂離宮。日本の建築美に接したくとも事前に予約しなくては入場することができない。もし優秀なコーディネーターならば事前予約だけではなく、質問にすぐに外国語で答えてくれるような専門家に同席してもらう手配をするだろう。そして季節ごとの食文化にしても、着物にしても、私達の文化には何か意味があることが普通だけれど、外国人にしてみれば一つ一つが深い思想のように見えるかもしれない。

 

この本を読んで、ドラッグストアやコンビニに群がる外国人の姿が日本の理想とすべきおもてなし旅行なのかと考えた。そして地方の観光文化の造成にも富裕層が求めるような「特別な心を育てるような経験」はむしろ有利に働くような気がする。日本が好き!と来てくださるのはとっても嬉しいけれど、どうせならば特別な旅にして欲しい。観光産業にはまだまだ伸びしろがあると確信できる一冊だった。