Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

[#002] こんな私に翻訳だなんて!まずは日本語どうにかしなくちゃ!な時に読みたい本

晴れた日にはドライブやサイクリングも乙ですが、今年のように緊急事態宣言ともなるとそうはいきません。こんな連休にはぜひ読書を!

 

自粛の前、移動の合間の待ち時間に入った地方の書店で手に取ったこの本、一気に読みました。

 

日本語の個性 改版 (中公新書)

日本語の個性 改版 (中公新書)

 

 

ネット依存生活になってからというもの、楽して文章が書けるようになりました。時候の挨拶なんかも自動でポンと入ってくれるし、漢字だってひらがなで入力すると候補がずらっと出てきます。自分の文章力は衰えてないどころか衰えた実感すらなかったのですが、最近会議でメモを取っている時に漢字が浮かんでこないとか、人とお会いした時に適切なご挨拶ができないとか「あれあれ、どうした自分!?」なこと頻発。

 

そしてそして何よりも途方にくれてしまうのが翻訳です。世の中グローバル化したことで私たち日本人も外国語でのコミュニケーションを迫られる機会が増えています。その波が会社の駒として働く私にも押し寄せてきまして対応せざるを得ない。泣く泣く翻訳作業に取り組むわけですが、もともと低い外国語力に日に日に落ちていく日本語力。出来上がりの作品が読むに堪えないのは容易に想像できますよね?ええ、訳した本人も何のことやらわからないんですもの、他人に理解できるわけがありません。

 

そこでそんな環境を逆手にとって、むしろ「翻訳家になりたい!」と思ってみようかなーという浅知恵のもと、

①外国語の学び方:外国語の達人の本を読んで学習のヒントを得る

②翻訳の技:翻訳は外国語だけできてもダメです。日本語も磨かねば!ということで、翻訳家の体験談や日本語論の本から表現法を学ぶ

をテーマに手元にある本を読んでみることにしました。

 

で、『日本語の個性 改版 (中公新書)』です。

 

著者の外山滋比古先生といえば、東大生に一番読まれている本として有名な『思考の整理学』の著者でいらっしゃいます。この本ね。

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

 1923年(大正12年)生まれの96歳で(2020年5月現在)、現在も精力的にお仕事をなさっておられます。

 

外山先生と聞いて私が最初に思い浮かべるのは、数々の著作よりも先生が翻訳なさった『本を読む本 (講談社学術文庫)』です。1900年ごろの本ですので古典と言えますが、読書をどのように自分の糧とするのかについて語った内容でエッセンシャルな「読書本」と言えるかもしれないですね。

 

そんな外山先生が1976年に書かれた日本語論。ちなみに2020年2月に改版発行となっておりますので文体も印刷も読みやすいですよ。

 

まず、私のような付け焼刃的外国語力で外国語→日本語への翻訳をなさっておられる方には強く熱く一読をおすすめしたい。外山先生はもともと英文学者でいらっしゃるのでおそらく英語⇔日本語の翻訳を主になさっておられると思います。先生がおっしゃる「読みやすい翻訳とは」日本語元来の構造にむりやり外国語を当てはめて直訳するようなものではなく、ニュアンスをこうむぎゅっとつかむことが先決!ということだと理解しました。私の場合は英語→日本語が多いのですが、まずは英語の文章が言わんとすることをニュアンスごとしっかり把握する。そして読みやすい、正しい日本語の骨格を用いて文章を組み立てよ、ということですね。

 

個人的にすっごく腑に落ちた個所がいくつかありまして、そのうちの一つを引用させていただきます。最近ミュージカルのように主人公が歌や踊りを繰り広げる映画を見たのですが(ハリウッドのやつです)、これ、最後まで見られませんでした。なんだか白けてしまったのです。

 

たとえば、こんな文章が出てきます。

独白的表現

 日本語は室内語として洗練され発達してきた言葉である。方丈の室内でしめやかにもの語りするにはこんなに適したやわらかなことばはないけれども、公衆を前にして演説するにはあまり適していない。福沢諭吉は日本語でスピーチ(これを演説と訳したのもほかならぬ福沢であるが)することは絶望的だとすら述懐した。福沢ほどの人でも演説に日本語が不向きであると断定せざるを得なかった。それほど日本語は部屋の外へ出ると弱い。(P48) 

 

学生時代、英文学の授業でロミオとジュリエットを和訳するというものがありました。まず英語で音読して、それを教授にあてられた人が訳すのですが、英語は韻の響きも美しく、シチュエーションもバルコニー越しの会話とありロマンチック感満点です。が、学生レベルの英語+日本語力では到底雰囲気ごと翻訳なんてできやしない。ミュージカルもそうですよね。戸外型の言語を日本語にするから、なんともわざとらしい現実感に欠ける歯の浮くようなセリフの嵐が…。言語学とはまた違うアプローチですが、文化の背景の違いを認識することは、日本語の上達や翻訳の上達の上でも大切であるということを学びました。

 

他にも純粋に「書く」ということについての外山先生の日ごろのお考えにも近づくことができますので、ぜひどうぞ。外山先生の選ぶ語彙の豊かさにも触れられる一冊です。