Dahlia's book log だりあの本棚

読書で得た喜びをここに記録として残します。 こんな本を読みましたという備忘録として。

#580 完全に文系の私に技術書を翻訳しろと? ~「技術系英文ライティング教本」

『技術系英文ライティング教本』中山裕木子 著

文系が工業英語に困ったら読むべき本。

 

さくさくと紙の本を読み進めている。今週末こそ全ての本をどうにか本棚の中に収めたい。読み返すことがないと思われるものは早々に処分したが、じっくり読みたい本がぎゅうぎゅう詰め。そのうち本棚から落ちてきそうな勢いだ。身の安全のためにも早急に読み進める必要がある。

 

さて、本書は仕事で必要だったので購入したのだが、タイトルにある「技術系」に特化せずとも役にたつ内容が多く、完全に文系の私には知らない世界が広がっているようなものすごい本だった。

 

本書は3つの軸からなっており、技術系の文章を英作文する際の基本、そして文法、最後に応用になっている。各章の終わりには練習問題もあり、文章は完全に理系の文章になっている。

 

正直申し上げて、日本語で読み書きしたとしても工業系の内容は全く分からない私が、それを英語で読み書きするなんて無理以外の何物でもない。ところが会社というのは何を考えているのかわからない。自分が知る分野のやりとりですら何とかこなしているレベルだというのに、軽くさらりと無理難題を押し付けてきた。技術書を英訳しろって、もう本当に無理です(涙)。8月、だらだら仕事していた理由というのがまさにこのせいで、やる気も起きないし、むしろ面倒くさくて記憶から消したいくらいだったのだが、9月に入って催促があった。仕方がない、やるしかないなと重い腰を上げたのだが、その中腰姿勢のまま積読の山に行き、本書をひっぱりだしてきた。

 

工業用の英語、私にはなぞの暗号にしか見えない時がある。例えば、普段使っている単語の意味がまったく知らない形で使われていて全く訳せない。訳せないということは、英文に書き起こすこともできない。

 

加圧室の中に液体を導入すると、液体は加圧される。

 

これを英文にするとどうなるか。

 

The liquid is pressurized when introduced into the pressurizing chamber.

 

 え、待って。Introduceって「紹介するじゃなくて?」と戸惑い。調べてみると、introduce A into Bで(理論や手法など)を導入する、取り入れる、という意味があった。辞書、本当は下までしっかり読まなくてはならないとわかっていつつも、つい並びで上の方にあるものばかり見ちゃったり、辞書によっては医療とか化学とか専門分野での使い方について丁寧に説明してくれているものもあるというのに、見逃しておりました。こういうところに日頃の雑さが目立ってしまう。これからは辞書も読み込まなくては。とは言え、普段の会話で液体の導入の話なんて出てこないもの!introduceの奥深さを今日あらたに学ぶことができた。

 

そして、工業英語は論文や技術書だけではない。その上ジャンルもいろいろで、本書で紹介されている文章から学んだ単語も多かった。そして毎度困ってしまうのが冠詞と前置詞。あと分詞構文も適切に使えなかったりと反省点は多いのだが、本書ではそんな文法問題をわかりやすく説明してくれている。文法書の様に深く追求しているわけではないのに、例文が工業系の文章になっているのでなぜかすっと頭に入る。

 

それにしても普段「高慢と偏見」とか読みながらダーシーに悶絶しているような私に工業技術書を翻訳しろとは...。お給料をもらっている以上、がんばってみますよ。経費不足で外注できないのも知っていますよ。でもこれ、ほんと終わりが見えないんですけど…。9月、倒れるまで頑張る。

#579 癒しのスープはやっぱり味噌汁だと思うのです ~「誰も教えなくなった、料理きほんのき」

『誰も教えなくなった、料理きほんのき』鈴木登紀子 著

昔ながらの丁寧な生活を。

 

8月は魂が抜けた状態でダラダラと過ごしてしまったので、9月は集中して作業を進めている。どの会社にも困ったちゃんがいると思うのだが、人由来のストレスは計り知れない。一日が終わるとぐったりで、その上作業も進んでおらず「我慢我慢」と小声で唱えながら帰宅した。これは気分転換が必要だな、と積読の山から本書を取り出す。手に取った瞬間、ちょっとだけほっこりした。

 

本書は確か何かのキャンペーンの時に金額を合わせる必要があって購入したはずだ。タイトルに惹かれ、内容もあまりチェックせずに購入したせいか、長く積読の山の土台となっていた。ああ、もっと早くに手にしておけばよかったと思うほどにぬくもりのある料理本だ。表紙のイラストが物語るごとく、昭和のお料理本のようなほんわりとした家庭の味を想像させるところが良い。器も実家にありそうなデザインで、母の味というかおばあちゃんの味を思わせる。

 

想像の通り、内容も和食の基礎について書かれており、お料理の写真はカラーだが、作業段階の部分は白黒のシンプルな装丁だ。

和食はどの本を見ても「出汁が大切」とある。どんな材料で、どんな風に出汁を取るかでお料理の出来栄えが変わってくると言う。著者は火を通さず誰でも簡単にできる「水出汁」をおススメしているのだが、レシピは煮干しの内臓と頭を取り、昆布や椎茸を入れて水でゆっくりと一晩おいて出汁を作るものだ。前の日に鍋に水を入れ、そこに材料を入れて冷蔵庫で保存するだけなのでいたって簡単。

 

ただ、この頃はご存じのように便利な材料がたくさんあり、パックを入れて火にかけるだけで出汁が取れる。しかもお手軽なのに美味だ。ものによっては顆粒のものだったり、お味噌などはすでに出汁が練りこまれているものだって存在する。楽しても十分に美味しいが、「丁寧な暮らし」を目指すには上のように昔ながらの工程でやるべきか?という気がしないでもない。

 

丁寧な暮らしへの憧れはあるが、時間に余裕がない限りどうしても手が届かない感がある。でも水出汁ならできそうだと早速やってみた。実際に作ってみるととても満たされた気持ちになった。おまじないみたいに、すーっと心が安定していく不思議さよ。材料出して、下準備を始めた時から「今日何か嫌なことなんてあったかしら?」くらいにすっかり頭から飛んでいく。明日の朝はお茶漬け食べたいなあ、と付け合わせも準備。そして余った材料を使って火にかけて出汁を取り、お味噌汁を作る。正直言って、市販のパックの味との差は私にはよくわからないけれど、ただ夜一人で出汁から作ったわかめの味噌汁は染み入るおいしさだった。

 

他のレシピも昔ながらの懐かしいものが多く、タイトル通りの和食の基本が並んでいる。

 

一つ一つゆっくり見ていくと、レシピ自体は難しいものではない。ただ、手の込んだというか、手がかかるというか、作業の多いもの、という印象が強かった。確かにこういうお料理は手がかかる分、外で食べるとなるとなかなか難しい。今や調理の場面も機械化が進んでいるし、人件費だってかかるわけだから相当なお値段となるだろう。よって楽に時短で!というレシピが多い中、本書のように昔ながらの和食レシピは確かに「誰も教えなくなった、料理きほんのき」だなあ、と実感する。

 

ゆっくりと時間をかけて、滋味のあるお料理を楽しみたいという時、真っ先にこのレシピ本を探すだろうな。

 

#578 英語圏の子供たちの”当たり前”が知りたい~「英米児童文化55のキーワード」

英米児童文化55のキーワード』白井澄子、笹田裕子 編著

英語圏の子供たちの世界。

 

必死に読み続けている積読の山はまだまだダイニングテーブルから消える気配がない。もったいないと思いつつも随分処分したはずなのに、なかなか減らないのがもどかしい。

 

さて、本書も一向に購入理由が思い出せない児童文学論関連のうちの1冊だが、思った以上に楽しく読め、さらに学びも多かった。

 

まず、本書は児童文学を読む際に絶対的に必要とされる「文化を理解する」知識を補うもので、もっと言えば「行間を読む能力」を高めてくれる1冊と言えるだろう。例えば、私たちにとっては畳の部屋というのは特に想像するに難しいことは何もない。しかし、実際に目にしたことのない海外の人にとって畳は謎でしかなく、もっと言えば靴を脱ぐことすら想像できない人だっているはずだ。それと同様に私たちには西洋の生活背景がわからない。子供が当たり前に習得する生活様式が異なるので、小説を読んでいて読み飛ばしている部分も多いだろう。

 

昔から辞書を片手に原書で小説を読んでいて、どうしても理解できない表現に行き当たると、聖書とマザーグースを疑う癖がついた。ことわざの場合もあるけれど、なんだこれ?と調べてみると、その2つが元ネタであることが多かったからだ。児童文学の場合には、家の構造や生活グッズがわからないから具体的に想像できないことも多かった。子供の頃は学校で百科事典でチェックする以外に探す方法が無く、翻訳された文章ともなると結局回答を得られず、ただ読み飛ばすしかなかった。

 

今ではネットもあるし、謎の答えに近づくことはたやすい。しかし、謎を謎と認識できなくてはならない。それを助けるにも本書は大いに役に立つ。55のキーワードは子供という概念に始まり、社会、生活、文化、世界観などを記しており、1つの項目が数ページと大変にわかりやすく読みやすい構造になっている。

 

これは個人的な誤解なのだが、児童文学というと18世紀以降のものが中心で、近代は含まないような印象があった。しかし本書は「児童文化」についての書籍であり、子供が登場する大人の作品からのアプローチもある。よって紹介されている作品も古典から最新の物まで多彩だ。時代や国を飛び越え、小説以外の映画、マンガ、音楽などのジャンルにまで広がっており、見ている世界がより広い。文化が社会を形成していく過程にも通ずるものがあり、英語圏を知る上で役に立つ情報が多かった。

 

子供の世界というのは世界共通な部分もあれば、お国柄という差異もある。それに気づかずに長い間読み進めていたのかと新たに学べる項目の他、「文化」という大きなくくりで俯瞰した読み方をすれば、児童文学に限らずニュースや大人の日常にも共通する見えない文化差についてもヒントを得られるところがあり、思いがけず収穫の多い1冊だったかもしれない。もし、子供の世界を描くことがあるならば、本書で紹介されている絵画、書籍、映画は非常に参考になると思う。

 

#577 割れっぷりがすごすぎる~「ルビンの壺が割れた」

『ルビンの壺が割れた』宿野かほる 著

顔か壺か。

 

夏、日焼け対策を怠ったまま車の運転をしていたせいか、右腕とか右頬にシミが出来ている。これはどうにかせねばとAmazonで美白関係の化粧品を購入した時、おススメとしてこちらの作品があり、Kindle Unlimitedでも読めるし軽い気持ちでダウンロードした。たまたま長く電車移動することとなり、早速本書を読み始めた。

 

まず、あとがきを読むまで「ルビンの壺」が何のことか知らずにいた。

ルビンの壺 - Wikipedia

そう、これです。ちょっと大きめに置いてみた。黒に注目すると左右に人の横顔があるようにも見えるし、ベージュに注目すると装飾の施された食器のようにも見える。

 

もし、ルビンの壺を知っていたら、読み方もきっと違ったかもしれない。いや、知っていても本書のものすごいインパクトには度肝を抜かれたに違いない。

 

普段はあまり著者以外の方が書いたあとがきは読まないのだが、今回はどうにも気になり目を通した。そこで「ルビンの壺」が上の絵のことであるということを知り、しかも表紙にもその絵が、しっかりと割れた壺の絵があったことに気が付いた。あとがきによれば、本書に対する感想は賛否両論あったようで、それはやはり「新しいから」という理由が最も適しているように思える。あえてジャンル分けし難い作品だ。

 

本書は書簡小説で、30年前に結婚を約束していた二人がFacebookを通じて互いの存在を再確認、その後のFB内でのメッセージのやり取りが綴られている。男性がかつての婚約者の姿をFBで発見し、久方ぶりと連絡を取る。しかし女性側からの返答は無く、男性側から数度メッセージを送った後に二人のやり取りが始まった。

 

二人の共通点は学生時代を同じ大学の演劇部で過ごしたことで、その後恋愛関係にあった。二人は結婚を約束するも、結婚式当日、彼女は式場に姿を現さず忽然と消えてしまう。男性はずっとその女性のことを考えるが、結局30年経ってようやく連絡が取れる。彼女の行方は人伝えに聞いた噂のみで、それは関西で結婚したという話だけだった。過去の思い出話が進む中、ゆらゆらと距離を縮めたり離れたりを繰り返す。

 

書簡小説は決して新しい分野ではない。だが手紙というのはプライベート感が最も高いものなので、どこか秘密めいたところがあり、読み手は全く背景のわからないところを手紙の内容のみを頼りにパズルを埋めるかのように中身を埋めていく。本当の自分がせきららにつづられている様を覗き見るような感覚がある書簡小説のはずなのに、これはまた純愛でも純文学でもない異様さがある。

 

手紙のやり取りが進んでいる間も「きっと会おうっていう話になるのかな」「昔の謎が解けるのかな」と期待しながら読み進めるのだが、なかなか様子が見えてこない。そして最後に「ハメられた!」みたいな、いきなり車がパンクして車がスピンしたくらいの衝撃だった。

 

あとがきでもジャンルの絞れない、というより今までにない流れを生んだ作品だとある。だからこそ評が割れたのだろう。個人的には面白かったし、書簡小説の亜流という考えには同意できない。また読みたくなることを考え、記録はこの程度にとどめておこう。著者の他の作品も是非読んでみたい。

#576 絵本に魅せられた大人の留学記~「イギリス絵本留学滞在記」

『イギリス絵本留学滞在記』正置友子 著

54歳からの本格留学。

 

週末、この頃お気に入りのクッションの上に派手にコーヒーをこぼしてしまった。ちなみに、これです。無印良品のもの。

 


これ、本気でおススメ。税込みで2990円とお財布にも優しい価格帯で、お色は3色。我が家には現在ベージュが2つあり、まだあと2つくらいあってもいいと思っている。大きさも丁度良く、普段は一つを背当てに、一つを膝の上において本を読んでいる。クッションがふわふわと柔らかいので重ねて使うと用途もぐんと広がってくる。

 

で、これがないと読書が捗らないほどお気に入りなので、コーヒーこぼした瞬間、おおおおおおおお!となった。このクッションはカバーがないので、汚さないように気を付けていた。呆然としている間にどんどんとコーヒーが浸食していく。オロオロしつつもなんとかしようとタグを見た。なんと「洗えます」表示がある。おおおおおおおお!と軽く水洗いした後、洗濯機で洗ってみた。縮んだらどうしよう。変形したらどうしよう。そんな心配もなんのその、染みもなくキレイに落とせて大満足です。ああ、やっぱり良品。あと2つ買いだな。

 

そこでクッションが乾くまでの間、児童文学の山の中から最も字数の多そうな本書を取り出す。赤い表紙に添えられているイラストがとてもかわいい。運河沿いで黒猫が男の人と話し込んでいるような牧歌的な様子に惹かれて読み始めたのだが、内容は本気度がすごかった。絵本への思いがぎゅうぎゅう詰めで、週末はこの1冊にかかりきりの読書タイムとなった。

 

著者は大阪にある千里青山団地に「青山台文庫」を設立した正置友子さんという方だ。本が好きで、ご自宅を週に1度開放して自営図書館を開くほどのパワフルさだ。後に団地内の広い所で図書館は再度スタートするが、著者の絵本にかける情熱はどんどんと大きくなったようだ。

 

なんと、54歳でイギリスのローハンプトン大学に留学され、6年間の学びと研究の記録がぎっしりと書き綴られている。まず、著者の研究対象は絵本で、それもヴィクトリア時代に限定されている。ヴィクトリア朝はヴィクトリア1世の御代である1837年から1901年を指し、産業革命でイギリスが絶好調だった時期にあたる。

 

ところで今年のヨーロッパはどこもエネルギーの逼迫や物価高に悩まされているという。イギリスも同様で、経済成長率のマイナス幅が広がり続けている。ヴィクトリア朝は世界の海を制すると言われた大英帝国も、今は威力を落としつつあるのが残念。

 

さて、産業革命期、識字率も徐々に上がり子供たちが絵本を読み始めるわけだが、それでも書物は貴重であったはずだし、誰もが簡単に手に入れることはできなかったはずだ。それこそ青山台文庫のように貸本屋があったり、読み聞かせがあったり、紙芝居があったりと、幾分子供たちと絵本の距離は縮まったとは言えるだろうが、高価であったことには変わりない。

 

イギリスだって日本同様、幼いうちから奉公に出たり、家事を支えたりと働く子供も多かったはずだ。貧困に苦しむ家計もあっただろうし、そこは日本と大きな違いは無いように思う。子供の人権が重視されるようになったのは本当に最近のことだから、当時の絵本が子供のみを対象にしていたのかどうか、そこはとっても気になる所だ。

 

さらに本書の表紙のように、絵本には「絵」が必要だ。挿絵の美しさはストーリーを凌駕するのでは?と思うほど見事な作品も多々ある。かつて博物館で見たことのある初版のシェークスピアの作品は文字そのものも美しかった。

 

そう考えると著者が絵本を児童文学というより、芸術して捉えたというのもよくわかる。経済繁栄とともに作品も多々出版され、時代の栄枯をも映しだす絵本たちに惹かれた著者は、約6年間、各地の図書館や博物館に訪れ、じっくりと研究を進めていく。しかも驚くべきは、本格的に勉強したいと考えて渡英するが、恐らく渡英前に研究題材についての具体的な案は無かったものと思われる点だ。本書の副題として「現代絵本の源流ウォルター・クレインに魅せられて」とあるが、著者がウォルター・クレインの書籍に出会うのは渡英後だった。

 

 イギリスに到着して早々に出会ったのが、ウォルター・クレイン(1845-1915)の絵本。運命的な出会いでした。

 運命的な出会いとして、直感し、それを我がこととして引き受け、未来に向けて行動することは、偶然を必然に変える。人間の自らの、止むに止まれぬ営みだったと思います。

森で狼に出会った赤ずきん[2]

Wikipediaにあったクレインの赤ずきんちゃんの挿絵を見ると、ぐっと引き込まれるような魅力がある。著者は研究の方向性をつかんでからは一直線に進んでいく。確かにこんな挿絵の絵本が数々目の前に現れたら興奮するに違いない。休むことなく研究を続け、ものすごい勢いで突き進んでいく。54歳から60歳までの間を英国で研究に費やしたことになるが、大学教授であっても60歳となれば退官するかたも多いのに、ご帰国後もずっと絵本の世界で活躍しておられる。

 

著者が留学していた1994-2000年、児童文学という分野は英国であってもまだまだ広く認知された学問ではなかったのではなかったのではないだろうか。文系の学科は数多く、子供の心理というのであれば心理学がより大きな派閥となっていただろうし、文学はそれこそ大御所揃いで少し距離がある。ハリーポッターの刊行は1997年だから、渡英すぐの頃には、「不思議の国のアリス」や「ピーターラビット」や「くまのぷーさん」などの超有名作品以外を研究対象にする人は本当に限られたことだろう。

 

著者の日本での活躍は、絵本を多くの人に手に取ってもらおうというだけではなく、学問として、より良い作品を作り出すべく、外に外にと伸び続けているように感じられた。学んだことが広く活かされるように、著者の思いのすべてが綴られた日記であり、研究記録であり、その真剣度が諸所に満ち溢れる読み応えのある一冊だった。真摯に研究に突き進む姿がものすごくカッコいいし、尽きない情熱に脱帽。

#575 お気に入りの本を学問として捉えてみたらこうなった~「英米児童文学ガイド 作品と理論」

英米児童文学ガイド 作品と理論』日本イギリス児童文学会

学問としての児童文学。

 

積読山の発掘は驚きと戸惑いの連続である。山は切り崩され、現在ダイニングテーブルの上に小山を作っている。毎日壁となった書籍を眺めつつ食事をとる日々だ。もともと広くもないテーブルがより圧迫されているので、どうにか今週中に片付けたいけれど、この量ほんとにどうしよう…。今はまず分別作業に当たっているのだが、買った本人も購入時期や目的を一向に思い出せないものがかなりあった。何かにハマった時に一気に関連書籍を買い集めてしまう癖があるので、きっと何らかの理由でまとめて購入しているとは思うけど、「ショッピングは計画的に」と過去の自分に耳打ちしたい気分。

 

中でも割と大き目の小山を形成している児童文学関連は、どうしてこんなにたくさんの量があるのか全くもって思い出せない。きっと何かに触発を受けて、その背景が知りたい!と思い購入→休みの日にまとめて一気に読むぞ!→まとまった休みなんて一切取れない→山に埋もれる→地層のかなり下の方へ・・・と、記憶の彼方へ追いやられてしまったのだろう。

 

とはいえ、やはり「読みたい」という気持ちがあって購入した書籍なので、いざ読み始めるとかなり楽しい。児童文学は子供も大人も楽しく読めるが、文学という学問として捉えた場合、どういう位置にあるのだろうか。分野の中でもジャンルや流派があるはずで、研究対象としてじっくり分析された内容を紹介しているのが本書だ。

 

全2部からなっており、1部は世界的に有名な17の作品を紹介、2部では「批評の理論と方法」として学問として捉える際の基礎知識が収められている。紀要論文集のような印象で、小さな頃から読んでいた作品の新たな面が見えてくる。ある小説はその時代の英国社会の様子を示していたり、児童書から文化背景や経済の様子まで読み取り、その当時の姿をよりリアルに思い描くものもあった。

 

お気に入りの作品についての見解を読むのは楽しくもあり、反発もありだったのだが、ここではE.ネズビットの「砂の妖精」について記録しておきたい。

 

何度読んでも毎回楽しめる本作品は日本女子大学の川端有子先生(2022年現在)が寄稿しておられ、著者にフォーカスを当てた内容だった。

 

ネズビットは英国のファンタジーを作ったと言っても過言ではなく、ドラマ化、アニメ化など今でも変わらず愛されている代表的な作家だ。ただ、この方はハリーポッターの作者であるJ.K.ローリングのように結婚生活ではご苦労なさっており、旦那が頼りにならず、子供を育て自分が生きていくために小説を書いた、という説をわりとあちこちで見かけることがあった。川端先生は、さらにネズビットの生きた英国が大きな渦に巻き込まれた始めた時期であり、当時の女性の立ち位置の変化にも注目しておられる。特に、ネズビットが社会主義に傾倒していたことなども挙げ、そのことだけに注目せず、ネズビットのもたらした文学が児童文学における分水嶺になっていることを頭に入れつつ読んでみよう!と仰っているように感じられた。

 

ところで、よくよく考えてみるとネズビット(1858-1924)の活躍した時期は、BBCドラマの「Peaky Blinders」の活動期と重なるじゃないですか。

 

 

Peaky Blindersは1890年代から1900年代初期にバーミンガムを縄張りとしたギャンググループで、シェルビー兄弟の生きざまを描いている。Netflixでおススメしたいドラマのうちの一つだが、「砂の妖精」の挿絵のせいか、同時代の物であることに軽い衝撃を覚えた。完全にネズビット作品のほうがずっとずっと古いと思っていたので、こんなに最近の人なんだ!というビックリ感がすごい。鎌倉時代の話だと思っていたら、実は江戸だった!くらいの気分である。まあ、ドラマだから少し盛られてる部分もあるだろうけど、それに気が付いてから「もしかしてイメージしてた世界ってもっと現代寄り?」と改めてネズビット作品を読みたくなっている。

 

しかしまずは小山を片付けなくては。児童文学関連、実はこれ以外にもかなりの数の書籍が積まれているので早い段階でサクサクと読んで、冬には児童文学三昧の読書を楽しめるように計画的な読書ライフを送りたい。

#574 お気に入りのドラマのあの言葉~「シリコンバレーの英語」

シリコンバレーの英語』Rochelle Kopp

シリコンバレーの特殊な用語。

 

ああ、ついに9月になってしまった。毎年9月になると気持ちがあせる。年末までのカウントダウンが始まるような気持ちになるからだ。9月末になれば「今年も残すところあと100日」となる。ということで、仕事の本も少し読もうとこちらを手に取った。

 

とにかく表紙が美しい。シリコンバレーってこんなにきれいなところなのか!と憧れてしまいそうだ。

 

さて、本書は2015年に書かれた本なので、今となってはものすごく新しい概念や単語が紹介されているというわけではない。100の言葉はシリコンバレーに限らずに通用するものも多く、スタートアップの記事でおなじみの単語が並んでいる。

 

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まずは単語の具体的な意味が左ページに、右ページには実際にその単語が使われた例文が発話者の名前と共に紹介されている。

 

左側の説明を読んでいるだけでも楽しい。逆に英語のほうは積極的に使ってみたいものは少なく、著名人のコメントに「おお!」といちいち反応し、音読してパワーをもらった気分になる。

 

ところで、一つ面白い項目があった。3番目に紹介されているGeeks and Nerdsだ。暇さえあればいつも見ているドラマにBig Bang Theoryというものがある。

 

彼らはカリフォルニア工科大学で物理学の博士として研究を続けている。とにかく天才なのだが、理系天才あるあるみたいな内容を面白くドラマ仕立てにしたもので、シリーズ12で最終回を迎えた。

 

彼らはいわゆるオタクでアニメ大好き、ヒーロー大好き、人付き合いが苦手で、変化を嫌い、女性にもてない。よって、GeekNerdという言葉が何度も出てくる。本書によるとGeekは特に自分が興味を持っている狭く定義された分野において、より外交的らしい。Nerdは数学と科学の分野において、より広範囲に適用可能な能力を持っており、データサイエンスの分野で解くに優れているという特徴があるとのことだ。

 

ドラマの中でも、周囲にそう言われることも、自分自身をそう呼ぶことも、なんだか誇らしい感じで使われている。理系天才というのはわかるけれど、意味に若干の違いがあることを知って「なるほど!」と思う。Big Bang Theory、もう何度見たかわからないくらいに大好きなドラマだ。久々にGeekという単語に触れて、またドラマを見始めてしまった。英語の勉強だ!と言い聞かせてしばらくはドラマ漬けかも。